2008年4月22日火曜日

万能細胞 iPSの奇跡 (5)再生医療 普及へバンク

(読売新聞 2008年3月9日)

「患者本人の細胞からiPS細胞(新型万能細胞)を作る
オーダーメードの再生医療は、
早期の治療が必要な脊髄損傷では非現実的」

国の総合科学技術会議iPS作業部会で、岡野栄之・慶応大教授は、
iPS細胞による拒絶反応のない再生医療への過剰な期待にクギを刺した。

岡野教授によると、脊髄損傷の治療で神経細胞を移植するのは、
損傷から9日目ごろが最適。
しかし、患者本人の皮膚から神経細胞を作るには、
腫瘍化の危険性などを調べるため、約2年かかる。
これでは効果が期待できない。

そこで岡野教授は、安全性を確保したiPS細胞や神経細胞を多数作製し、
保存しておく細胞バンクの設立を考えている。
拒絶反応の原因となる白血球の型の不適合をなくすため、
型が異なるiPS細胞を200種類用意。
これで、日本人の8割に拒絶反応のない細胞が作れるという。

共同研究者の国立病院機構大阪医療センターの金村米博医師は、
「バンクは、高品質で安い移植用細胞が提供できる。
脊髄損傷に限らず、iPS細胞を使う再生医療の普及には、
バンクが望ましい」。

創薬分野でも、iPS細胞の本格的な活用が始まりつつある。
東京・港区のバイオベンチャー企業「リプロセル」は現在、
サルの胚性幹細胞(ES細胞)から心筋細胞を作製。
その細胞に、製薬会社から依頼された新薬の候補物質を投与して
毒性を調べる事業を行っている。
これを発展させ今年中に、人のiPS細胞を使った事業も始める。

iPS細胞の実用化へ課題も見えてきた。
一つは、国の再生医療に関する指針は、体内に元々ある幹細胞が対象で、
iPS細胞を想定していない点。
iPS細胞を使う再生医療技術が確立しても、指針が間に合わず、
安全面などから臨床応用できない恐れがある。

もう一つは、日本で治療の技術が医療特許として認められていない点。
バイオベンチャー企業の取締役を務める森下竜一・大阪大教授は、
「医療特許の範囲が狭いままだと、企業が参入しない。
今からでも欧米並みに医療特許を広く認めれば、
日本がiPS細胞の産業化・実用化で勝てるかもしれない」。

文部科学省は、実用化に向けて京都大や慶応大など
4つの研究拠点を選定、オールジャパン体制がいよいよ動き出す。
山中伸弥・京都大教授は、「これからの道のりは、
iPS細胞の作製までにかかった道のりよりも長いだろうが、
一日も早く実用化させたい」

http://www.yomiuri.co.jp/science/ips/news/ips20080309.htm

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