2008年4月20日日曜日

万能細胞 iPSの奇跡 (3)倫理面に考慮 ルール作り

(読売新聞 2008年2月17日)

「社会的関心の高いiPS細胞研究に、タガをはめるのは慎重にすべき」、
「iPS細胞は良くて、胚性幹細胞(ES細胞)は駄目だというのでは
(対応に)統一性がない」

先端研究のルールを話し合う文部科学省の生命倫理・安全部会は、
ES細胞同様に、人のiPS細胞から精子や卵子などの生殖細胞を
作ることを当面禁止すると決めた。

iPS細胞から作った精子や卵子による人間の誕生は、
現時点では、社会に受け入れられず、
その可能性を取り除いておくべきだと判断。

今回の規制のきっかけは、iPS細胞の“生みの親”
山中伸弥・京都大教授による問題提起。
一定の規制を設けた方が、逆に研究がやりやすいためで、
山中教授は2007年12月、国に検討を求めた。

最先端の生命科学研究は、倫理面などを考慮した
規制強化と社会利益のバランスが求められる。

人のiPS細胞作製という発表からわずか2か月余りで設けられた
規制の背景には、韓国の黄禹錫(ファンウソク)・元ソウル大教授の
捏造事件が透けて見える。

04年、黄氏らが作ったという世界初の人のクローンES細胞は、
実際には存在せず、作製に必要な卵子の提供を
部下の女性研究者に強要した倫理問題が発覚。
この事件で、韓国の幹細胞研究は大きく停滞した。

iPS細胞は、ES細胞と違い、作製過程で受精卵は破壊しないなど
倫理的な問題は少ない。
しかし、分子生物学の基本的な技術を持つ科学者であれば、
容易にiPS細胞を作製できるとされ、
技術を悪用される可能性も捨てきれない。

児玉聡・東京大医学部講師(医療倫理学)は、
「黄氏の事件のような例を含め幅広い視点で、倫理的問題を検討し、
対応策を考えなくてはならない。
倫理問題が起きると、iPS細胞研究全体が止まりかねない」。

厳格な規制について、京大人文科学研究所の加藤和人准教授は
「規制が足かせになって、再生医療の実現が遅れ、
結果的に社会にとって不利益になることもある」。

文科省の部会が「当面」禁止にとどめたのも、
不妊症患者のiPS細胞から作った生殖細胞で、
不妊症の原因解明や治療法の開発につながる可能性があるから。
委員の位田隆一・京大公共政策大学院教授は、
「完全な禁止は、研究の道を閉ざしてしまうことになり悩ましい」。

黄氏の事件を契機に、国際幹細胞学会は07年、
生命倫理学者と協力し、人のES細胞研究の倫理指針を作成。
加藤准教授は、「iPS細胞の研究や応用でも、この研究で先行する
日本が主導して、倫理面や安全面の国際的なルール作りの
検討を始めるべきだ」。

http://www.yomiuri.co.jp/science/ips/news/ips20080217.htm

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