2008年6月4日水曜日

第1部 イノベーションを考える/4止 事業化へ、「種」見極め

(毎日 5月25日)

よい技術や新しいアイデアが、必ずしも大きな市場を生み出すとは限らない。
どうすれば「イノベーションの種」を見極め、大きく育てられるのか?
そのヒントになる試みが、「ベンチャーの都」とも言われる京都で続いている。

京都市が、97年につくった「ベンチャー企業目利き委員会」という制度。
同市の産業振興ビジョンに基づき、
堀場雅夫・堀場製作所最高顧問、永守重信・日本電産社長ら
地元財界のメンバーが集う。

応募されたビジネスプランを審査し、
事業化の可能性が高いアイデアにお墨付きを与える。
Aランクに認定されれば、低利融資や研究開発スペースの賃貸などの支援。
延べ360社あまりから応募があり、63社をA認定。

06年には、この中の1社が初めて東証マザーズ市場に上場。
6畳間ほどの密閉された部屋の脇で、
空気を循環させるポンプの音が静かに響く。
京都市のベンチャー企業、「五和工業」が独自技術で開発したドライルーム。
同社は06年、A認定を受けた。

携帯電話の電源に使われているリチウムイオン電池の製造には
湿気が大敵で、相対湿度1%以下という環境が必要。
小笠原稔社長(61)は、「うちのドライルームは、従来より低コストで、
日々の管理も楽なのが特長」。

小笠原さんが企業の技術者から転身し、会社を起こしたのは01年。
自身が特許を持っていた除湿装置を、プラスチック成型機用に
売り込もうとしたが、「既存の企業による販路が出来上がっていたところに
攻め込んだため、単体では売れなかった」。

低湿度の空気を作るシステムとしてもう一度、ビジネスプランを練り直し、
目利き委員会に挑戦。
「成功した先駆者から見て、自分の考えがどう評価されるか。
漠然としていたアイデアを形にするきっかけにもなり、
審査の過程そのものが貴重だった」。

イノベーションを起こすような人が、世に出るのを妨げているのは、
評価する仕組みがないことだろう」。
目利き委員会の創設を市に提言した堀場さんは、
委員会の狙いを説明する。
学生時代にベンチャーを起こし、関西を代表する企業に育てた。
堀場さん自身、その過程で地元の企業に助けられた。

「トヨタの売り上げを倍にすることはできないが、
ベンチャーなら2倍、3倍にできる。
1万社あれば、トヨタがもう1社増えたのと同じ。
ベンチャーがなくなれば、国は滅びる。
成功例を増やし、若い人に挑戦する気持ちを持ってもらいたい」。
83歳の草分けはそう期待する。

http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20080525ddm016010041000c.html

0 件のコメント: