2008年6月7日土曜日

特集:きょう世界環境デー(その2止) 生物多様性も危機に

(毎日 6月5日)

地球上の生物は、開発や気候変動の影響で、毎年4万種が絶滅。
絶滅を防ぐため、さまざまな取り組みが進められているが、
効果は上がっているといえない。
生物多様性の保全も、国際的な問題。

生物多様性は、生物の遺伝子、種のほか生態系も含み、
地球上の生物の多様さと、自然の営みの豊かさを指す概念。
単に動植物の種類の多さだけでなく、数十億年の長い歳月をかけて、
地球上に形成された生物の長い歴史と相互のつながりをも意味。

我々の生活は、生物多様性を利用することによって支えられている。
食糧のほか、産業などに必要な原料の提供を受けている。
生物の多様性が失われることは、私たちの生存そのものが脅かされる。

だが、生物多様性への脅威は増すばかり。
野生生物の大量捕獲と耕作地の拡大が始まったこの数百年で、
人間は種の絶滅をそれまでの1000倍に加速。
07年版IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストには、
1万6306種が「絶滅危惧種」。

森林は、豊かな生物多様性を持つ熱帯雨林を中心に、
日本の国土の約3分の1にあたる年間1400万ヘクタールが減少。
海では、20世紀末の数十年間で世界のサンゴ礁の約2割が失われ、
さらに2割が劣化。
水産資源の4分の1の魚種は、乱獲により著しく枯渇。

地球温暖化による影響も、今後加速すると予想。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次評価報告書は、
地球の平均気温が1・5~2・5度を超えた場合、
これまでに評価対象となった動物種の約2~3割は
絶滅のリスクが高まる可能性が高い。
サンゴ礁については、約1~3度の海面温度の上昇で、
白化や広範囲な死滅が頻発すると推測。

このような現状に歯止めをかけるため、
「生物多様性条約」が92年、ブラジルで開かれた地球環境サミットで
気候変動枠組み条約とともに採択。
両条約は「兄弟のような関係」にあり、02年にオランダであった
第6回生物多様性条約締約国会議(COP6)で
「2010年までに達成すべきこととして、
生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」との目標。

しかし、多様性の損失速度は止まっていない。
神戸市で開かれた主要8カ国(G8)環境相会合では、
2010年目標への各国の取り組みを強めることを確認。
次の条約締約国会議(COP10)は、日本の名古屋市。
主な議題として、目標達成の検証と新たな目標の設定や、
生物資源をめぐる先進国と途上国間の格差是正など。

国内では、多様な生き物を守り、自然と共生する社会の実現を目指す
「生物多様性基本法」が成立。
開発計画の立案段階から環境影響評価(アセスメント)を実施する
「戦略的環境アセスメント」や、影響が科学的に不確かな場合でも
予防的な対策を求める「予防原則」の規定。

同法は、国土や自然資源の利用を「生物多様性に及ぼす影響が
回避され、最小となる」方法に限ることを原則に掲げた。

◇危機の「ホットスポット」34地域 保全、貧困対策にも

環境NGO「コンサベーション・インターナショナル」(CI)は、
最も生物多様性が豊かでありながら、同時に危機に直面している
世界の34カ所を「生物多様性ホットスポット」として選定、
その保全に取り組んでいる。

CIジャパンの日比保史代表に、
生物多様性保全の重要性と日本の果たす役割について聞いた。

生物多様性が、主要8カ国(G8)首脳会議で取り上げられるなど、
その重要性が高まっているのは、多様な生き物がつくる豊かで
健康な生態系が、経済や産業を根底から支えている。

生物多様性は、さまざまなサービスや財を我々に提供する。
例えば、多くの動植物が生息する熱帯林。
ここから難病の特効薬がいくつも発見された。
エコツーリズムで人に憩いを与え、二酸化炭素(CO2)の吸収源。

ホットスポットは、地球の表面積のうち2・3%の広さの地域に過ぎないが、
ここに最も絶滅が危惧されている哺乳類、鳥類、両生類の75%が生息。
そのほとんどが途上国に位置。

途上国では、人々が生きるために生物資源に直接依存。
焼き畑や、まきを得るために木を切るなどの森林破壊によって、
結果として二酸化炭素排出が増える。
生物多様性の破壊は、途上国の貧困問題と表裏一体の問題。
ホットスポットを保全することは、
生物多様性と貧困問題の両方の解決の有力な戦略。

日本で生物多様性というと、国内の自然保護に目が向けられがち。
日本列島全体もホットスポットであり、その保全はもちろん重要。
だが、日本は農産物や工業製品の原材料の多くを海外に依存、
それが海外の生態系に与える影響をもっと考えるべき。

北海道洞爺湖サミットを経て、2010年のCOP10へと
生物多様性にとって重要な時期。
地球全体の生物多様性に、これだけ便益を受けている国として
何をやるべきか、市民も行政もグローバルな視点が求められている。
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◆生物多様性条約締約国会議の歩み
1992年 地球環境サミットで、条約採択
  93年 条約発効。日本も署名・批准
  94年 バハマで第1回条約締約国会議(COP1)開催
2000年 遺伝子組み換え生物の輸出入規制、カルタヘナ議定書を採択
  02年 COP6で、生物多様性の損失速度を2010年までに減少目標
  08年 ドイツ・ボンでCOP9
  10年 名古屋市でCOP10が開催予定

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2008/06/05/20080605ddm010040204000c.html

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