2008年6月4日水曜日

発病機構:ストレスと病気はmTORC1を介して結びつく

(Nature Reviews Molecular Cell Biology 9 ( 5 ), May 2008)

結節性硬化症複合体(TSC)遺伝子であるTSC1、TSC2の欠失は、
mTORC1(mammalian target of rapamycin complex-1)
その下流のシグナル伝達系成分の構成的な活性化につながり、
インスリン抵抗性、腫瘍発生および神経学的異常が引き起こされる。

Hotamisligilらは、2つの重要な保存されている経路である
mTORC1経路、小胞体(ER)ストレス経路の間に、
以前には知られていなかったつながりがあるのを明らかにし、
小胞体とmTOR経路の間に連絡があって、
栄養恒常性、インスリン作用と生存の制御をしていることを実証。

以前の研究で、肥満は小胞体ストレスの原因となり、
インスリン抵抗性の発症を促進することが明らか。
彼らは、TSC遺伝子の喪失に関連して起こるインスリンシグナル伝達の
遮断も、小胞体ストレスの結果なのかどうかを調べた。

Tsc1−/−およびTsc2−/−マウス胎児繊維芽細胞(MEF)は、
小胞体ストレスのマーカーが増加し、PERKリン酸化の増大、
UPR(unfolded protein response)にかかわる遺伝子の発現上昇、
インスリン受容体(IR)シグナル伝達の重要な負の調節因子である
JNKの活性化がみられた。

TSCノックアウトMEFで、TSC機能を回復してやると、
こうした影響は解消された。
このような知見は、TSC変異マウスモデルを使ったin vivo実験と
TSC患者由来の組織でも確認。

mTORシグナル伝達を、シクロヘキシミドあるいはラパマイシン処理により
阻害すると、タンパク質の本来の構造を安定化するように働く
化学シャペロンである4-フェニル酪酸(PBA)を投与した場合と同様に、
UPRマーカーの発現増大は抑制。

この知見は、TSC変異細胞でのUPR活性化の原因が
タンパク質翻訳の増加であることを示している。

mTORC1経路の脱調節した活性化は、
負のフィードバックループの引き金となり、IRシグナル伝達を遮断。
この阻害は、TSC変異細胞で最もはっきりしている。
PBA処理は、IRシグナル伝達阻害を回復させることが、
インスリン刺激によりリン酸化されたIRS1(IR-substarate-1)、IRS2、
およびリン酸化AKT/PKBレベルの測定により確かめられた。

PBA処理により、小胞体ストレスに長時間曝された細胞でみられる
IRS1とIRS2の分解が軽減することもわかった。
これらの結果は、小胞体ストレスがIRシグナル伝達阻害調節における
重要な発症因子であることを裏付け。

TSC変異細胞での小胞体ストレス増加は、
機能的にはどういう意味をもつのだろうか?
TSC変異細胞では、グルコース欠乏による細胞死が起こるが、
これはPBA処理により軽減された。
ツニカマイシンあるいはタプシガーギン処理によって、
小胞体ストレスを引き起こすと、TSC欠失細胞ではin vitroでもin vivoでも
ラパマイシン処理によるアポトーシスが増大。

TSC欠失は、mTOR活性の上昇を引き起こし、
これが小胞体ストレスを増大させた結果、IR阻害が引き起こされる。
この条件下では、小胞体ストレスによって
細胞がアポトーシスを起こしやすくなる。

小胞体ストレスは、代謝応答、生存応答をmTORC1経路を介して統合する
重大な役割があると考えられる。
これらの知見は、mTORC1の調節異常を伴う疾病、
つまり肥満や糖尿病、がんと重大な関連がある。

それは小胞体ストレス経路の引き金となる、もっと選択性が高く
毒性の低い薬剤が開発されれば、新しい治療法、
例えば腫瘍細胞を選択的に殺すような戦略につながる可能性がある。

http://www.natureasia.com/japan/mcb/highlights/article.php?i=66428

0 件のコメント: