2008年6月5日木曜日

ゼブラフィッシュの繊毛のタンパク輸送メカニズムを解明

(nature Asia-Pacific)

大阪バイオサイエンス研究所発生生物学部門 大森義裕研究員

繊毛は、脊椎動物のほとんどの細胞の表面にある
千分の数mmほどの毛で、細胞の外の情報をキャッチする
アンテナとして働くと考えられている。

感覚器や腎臓などの細胞で重要な働きをし、
耳の有毛細胞では音、鼻の嗅細胞ではにおい分子、網膜の視細胞では光、
腎臓の尿管細胞では尿の流量と、細胞のタイプによって
物理的な刺激や化学的な刺激に反応する。

心臓のような臓器の左右非対称性の形成にも、繊毛が関わる。
網膜色素変性症、多指症、腎臓障害、肥満などが起こる、
ヒトのbardet-biedl症候群は、この繊毛の異常と関係。

大阪バイオサイエンス研究所の大森義裕研究員は、
ハーバード大学医学部などとの共同研究で、
熱帯魚の一種であるゼブラフィッシュを使い、
繊毛の形成・機能に必要なタンパクの輸送の仕組みを解析、
elipsaという遺伝子が重要な鍵を握ることを発見。

ゼブラフィッシュは多産で発生が速いため、
マウスに比べて遺伝子解析がスピーディーに行えるというメリット。
大森研究員が2007年まで留学していたハーバード大学医学部では、
十数年前からゼブラフィッシュの遺伝子変異を網羅的に解析する
プロジェクトが始まっており、何千個単位の変異体が発見。

その中に突然変異で背中が曲がり、腎臓が膨れて、
ヒトの多膿疱性腎症と似た状態になるゼブラフィッシュがおり、
大森研究員らは、この変異体では網膜の視細胞が
繊毛の損傷が原因で死滅することを突き止めた。

ゼブラフィッシュだけでなく、ヒトやマウスでも、繊毛の異常が
腎臓や目の障害に関係するという報告が相次ぐ。
大森研究員らが、繊毛の異常を引き起こす遺伝子の特定に
挑んでいたとき、タイミングよく、植物や酵母のように細胞に
繊毛がない生物と鞭毛虫や線虫、ヒトなど細胞に繊毛を持つ生物の
ゲノムの比較から、繊毛に関係すると考えられる遺伝子が
リストアップされたこともあり、研究が加速、elipsaの特定に成功。

elipsaは、ヒト、魚、ハエ、線虫、鞭毛虫などに共通する、
昔から保存されてきた遺伝子。
ゼブラフィッシュで、elipsaが突然変異を起こすと、
耳、目、脊髄、腎臓で繊毛がなくなり、細胞体に根元が残っていることを報告。

大森研究員らは、elipsaは繊毛の形成とも関係すると推測。
elipsaがコードするタンパクが、どんなタンパクと結合するかを調べ、
IFT(intraflageller transport:鞭毛内輸送複合体)や
細胞内小胞輸送の制御因子であるRabのエフェクターRabaptin5に結合し、
複合体を形成することがわかった。

elipsaタンパクは、繊毛の形成や機能に必要なタンパク分子の運び屋。
「繊毛を建物とすると、IFT がエレベーターで、
elipsaタンパクはエレベーターに乗る人(=繊毛に必要なタンパク)を
エレベーターまで案内し、自分もエレベーターに乗って、
降りるべき階まで付いていく。そして用事が済むと降りてくる」。

蛍光標識されたelipsaタンパクが、動く様子は動画で見ることができる。
elipsaタンパクは、エレベータに乗る人と乗らない人を選別しているが、
大森研究員はこの選別を手助けしているのはRabでは。
elipsaやRabの変異によって起こるヒトの病気はまだ報告されていないが、
「elipsaだけでなく、IFTを含めて、この複合体のどこが壊れても
病気になるのではないか」。

繊毛の機能の解析から、ヒトの病気との関連が明らかになり、
治療に結びつくことが期待。

http://www.natureasia.com/japan/tokushu/detail.php?id=100

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