(読売 1月18日)
京都大の山中伸弥教授が作製したiPS細胞は、ノーベル賞級の成果とされ、
2006年の発表以来、世界中で研究競争が続いている。
山中教授がいち早く実現できた背景には、
将来性を鋭く「評価」した「目利き」の存在がある。
6年前、科学技術振興機構(JST)の「戦略的創造研究推進事業(CREST)」で、
採択の審査をしていた大阪大の岸本忠三・元学長は、
ある申請書の題名に目を留めた。
「真に臨床応用できる多能性幹細胞の樹立」。
「真に」とは、今までの研究はまるで役に立たないと言わんばかりの
大胆で挑戦的な表現。
名前倒れにもなりかねないが、幹細胞研究の重要性を意識していた
岸本元学長は、内容に「キラリと光るもの」を感じた。
面接で本人の能力と熱意を確認し、「百に三つも当たれば」と採択、
年間約5000万円を5年間支給。
研究は一気に進展、「千に三つ」の成果に大化けした。
当時、まだ目立つ業績をあげていない山中教授は、
年間1000万円の研究公募にも落選していた。
山中教授は、「面接の最後に『言い残したことはないか』と聞かれ、
採用は無理だと思った。研究は一生をかける覚悟だった」と振り返る。
岸本元学長は、今年のクラフォード賞を受賞する免疫学者だが、
同じCRESTで、ウイルス研究で著名な東大の河岡義裕教授も見いだした。
「名伯楽」とも呼ばれる。
研究費の審査の多くは合議制で、無難な結果になりがち。
研究者本人の情報があって、一定の成果が見込める有名大学や
著名な研究室の出身者が有利に。
大化けの可能性のあるダイヤの原石は埋もれかねない。
神戸大を卒業し、大阪市立大、奈良先端科学技術大学院大と
地方大学を歩んだ山中教授も、研究費の面では恵まれてはいなかった。
CRESTは、原石を拾い上げるため、一人が責任をもって選び、
「良いと思ったら少々強引でも採用できる」(北沢宏一・JST理事長)のが特徴。
目利きは、いま“ブーム”だ。
最先端の基礎研究から、技術の製品への応用まで、活躍の場は幅広い。
政府は新年度、先端技術の開発動向や進展を常に把握し、
意見を聞くために、60~70人程度の目利きを配置。
経済界も、企業の研究所長といったエース級の人材を推薦するなど、期待は大きい。
野球に10割打者がいないように、絶対確実な目利きもいない。
米国は、目利き先進国と言われるが、インターネットの巨人「グーグル」でさえ、
創業前はいくつもの企業に売り込んだが相手にされず、結局独立した経緯を持つ。
目利き養成に王道はない。
「よく勉強し、人に話を聞くこと」と岸本元学長は語る。
将来性を見抜く人材を育て、権限と待遇を与え、敬意も払う「目利き文化」を、
日本でも根付かせたい。
http://www.yomiuri.co.jp/science/tomorrow/tr20090118.htm
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