2009年1月28日水曜日

理系白書’09:挑戦のとき/2 高エネルギー加速器研究機構助教・多田将さん

(毎日 1月18日)

茨城県東海村のJ-PARC(大強度陽子加速器施設)
4月から稼働する巨大な実験装置「ニュートリノビームライン」
の設計を任された。

素粒子ニュートリノを毎秒1000兆個、約295キロ離れた
岐阜県の観測装置「スーパーカミオカンデ」に打ち込み、
その変化をとらえようという壮大な実験(T2K実験)に使われる。

稼働すれば、装置は強力な放射能を帯び、
一部の部品は取り換えがきかなくなる。
設計・建設に間違いは許されない。

米軍がイラクで使ったという薄茶の迷彩服姿に肩まである金髪。
物理学者のイメージとは程遠いいでたち。
迷彩服とおそろいのヘルメットをかぶり、無数のパイプが走る
全長約100メートル、高さ約10メートルの実験装置の建設現場を飛び回る。

実験の目的は、他の物質とほとんど反応せず、物体を通り抜けてしまうなど
謎の多いニュートリノの性質を調べること。
装置の案内役も買って出る。
見学者に、難解な物理学の理論を振りかざすのは大嫌いだ。
「納税者である皆さんはスポンサー。お金の使い道を知りたいと思って当たり前」
装置責任者として、公用車や作業服の手配も多田さんの仕事。

04年4月、J-PARCに赴任して最初の仕事は、
ゼネコンの現場監督との工事に関する交渉。
「細かいこともやらないと、結局は一番大事な仕事がうまくいかなくなる。
嫌いなことから逃げてはダメ。
好き嫌いではなく、その仕事が全体の中で必要かで判断するのが
プロフェッショナルでしょう。ぼくはプロの学者になりたい」

4人きょうだいの末っ子。
一家の中で、4年制大学を卒業したのは多田さんだけ。
両親に勉強のことを言われた記憶はない。
自動車整備士だった父親は、
どんなことでも徹底する大切さを背中で教えてくれた。

「やるからにはトップを目指す」
多田さんの目標は、T2K実験のような素粒子物理学の巨大プロジェクトを
率いるチームリーダーになること。
「T2Kで働く400人の研究者の中で、物理の勉強では
ぼくは400番目かもしれない。
でも細かい仕事でもきちんとやることで、全体を見渡せる人間になりたい」。
目前に迫った実験の成功こそが、大きな目標の達成につながると信じ、
今日も地道な仕事に励む。
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◇ただ・しょう

大阪府摂津市出身。01年、京都大大学院理学研究科物理学・
宇宙物理学専攻博士課程修了。
同大大学院非常勤講師を経て、04年4月から現職。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/01/18/20090118ddm016040018000c.html

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