2009年1月31日土曜日

漢字力=企画力 一言の妙、仕事に応用

(日経 1月6日)

漢字を使いこなす能力が、ビジネスに必要な素養だとわかっていても、
日ごろから意識的に漢字力を磨くのは意外に難しい。

昨年、漢字の誤読を連発し、求心力が低下したといわれる
麻生太郎首相の姿は記憶に新しいが、
人のことを笑えなくなる場面はビジネスの世界にもありそう。
日本漢字能力検定(漢検)に合格したビジネスパーソンの経験をもとに、
漢字力を養うことでどんなスキル向上が可能かを探った。

博報堂のクリエイティブセンターに勤務するデザイナーの小塚泰彦氏(30)は
漢検2級の合格者。
最近、アパレルの顧客企業からCI(コーポレートアイデンティティー)戦略を
立案する依頼を受けて、「生活の補助線」というコンセプトを提案、即採用に。

「生活」と「補助線」。
簡単な漢字の組み合わせだが、小塚氏の漢字に対する感度の高さが
顧客企業を満足させた成功例。

補助線とは本来、幾何学の用語。
図形に線を書き加えることで、今まで見えていなかった解を導き出せる。
こんな意味合いを込めて、衣類から今まで見えていなかった
新しい生活スタイルを提示する企業の姿勢を一言で表現。
「生活の補助線」という言葉が決まると、企業のロゴマークや衣類を売る
店舗のインテリアも次々にイメージがわき、CI戦略の仕事は順調に進んだ。

どんな企業でも、事業の戦略をまとめる会議などで、
戦略の方向性を一言で表現できる能力が求められる場面は多い。
「軽・薄・短・小」は「軽い」、「薄い」といった商品が売れ筋になるという
消費の傾向を、端的に漢字四つで表現した経済誌の造語。
「新商品の特徴を一言で言えば○○です」などとプレゼンテーションするとき、
聞き手の心に届く言葉を使いこなすには、相当な漢字力も求められる。

人材紹介業務でも、漢字力を使って「企画力」を高めようとする人がいる。
人材紹介のジェイエイシージャパンで、人事部担当の
高井理香アシスタントマネージャー(32)。

人材紹介の業務では、人材の履歴書に添える推薦文などを書く機会が多く、
「この人物をなぜ紹介するのか。どんな魅力を持った人物なのかを
表現しなくてはならない」
漢字力を磨けば、質実剛健など、紹介する人物の特徴を
短く的確に表現する能力が高まるのが利点。

高井氏は自ら漢検二級を取得し、人材育成の一環として
漢検を社内に広げようとしている。
イントラネットで漢字問題を配信するなどの支援策が奏功し、
2級合格者は全社員の1割を超え102人に。
新入社員は、合格水準に達しないことも少なくないが、
準2級を1年以内に取得するように指導。

三井住友海上火災保険の船橋南保険金お支払いセンターに勤める
照屋博之主任(30)も、漢検2級の合格者。
自動車事故に関連した保険金支払いについて説明するのが仕事で、
事故にあった人には対人賠償保険と搭乗者傷害保険の違いなどを
説明する文書を週に2—3本は作成。
「受け取れる保険金の趣旨がそれぞれ違うことなどの要点を整理し、
分かりやすく書く表現力の幅が広がった

3人のような合格者は、どのように漢検をクリアしたのだろうか。
照屋氏が2級に合格したのは、2007年夏。
通勤や昼食の時間を活用して、漢検用の参考書を使って1カ月程度、
集中的に勉強した。
合格後は、「言葉に対する注意力が増して、こまめに辞書を引く習慣がついた」

小塚氏は、「言葉の感性を磨くには、詩を読むとよい
西脇順三郎や瀧口修造といった詩人の作品を愛読していると、
漢字を使った表現力も向上した。

高井氏は、実際に漢字を書いてみることが重要。
相談にくる社員には、「自分は電車の中でメモ帳に漢字を書いて覚えた。
任天堂の携帯型ゲーム機で、漢検のソフトを使ってペン入力で書いてみてもよい」

「検定ブーム」が続くなかで、漢字検定は検定の横綱だ。
日本漢字能力検定協会によると、2007年度に漢検の志願者数は
過去最多の271万人に達し、受検者は国内の検定試験としては最大規模に。
中高生が中心、20代後半、30代の志願者も3割以上増加、
社会人にも浸透している。

社会人として養っておきたい漢字力は、漢検2級の水準。
2級の検定では、社会生活で一般的に使われる漢字の目安である
「常用漢字表」の1945字のほか、戸籍に記載できる人名用漢字についての
知識が問われる。
出題数は120で、試験時間は60分。8割程度の正答率が合格圏。

出題傾向をみると、漢字の読み書きは全体の半分近くで、
同訓異字や同音異義語についての問題のほか、
誤字の訂正、四字熟語の能力なども幅広く問われる。
「言葉の運用力が試される」
(日本漢字能力検定協会の多和泰美・東京事務局次長)と覚悟して、
試験に臨む必要がありそう。

公開会場での検定は年3回。
日曜に実施するが、平日に同協会などの準会場に出向いて、
パソコン画面に回答を入力する「漢検CBT」でも受検は可能。
自信がついてきたところで、手軽に腕試しすることもできそう。

年初めに一段のスキルアップを狙う気構えができたら、
ビジネスの基礎体力を養成するスタンスで、
漢検を活用してみるのも手かもしれない。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/bizskill/biz090106.html

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