2009年1月25日日曜日

宇宙医学が骨粗しょう症患者を救う

(日経 2008-11-07)

若田光一さんは、日本人宇宙飛行士として初めて宇宙ステーションに長期滞在。
今回は3カ月以上となる見通し。
これは、“ 宇宙の骨粗しょう症”予防など宇宙医学の新たな挑戦。

宇宙飛行士たちの元気な笑顔を見ると、
厳しい訓練を経てようやく行ける世界であることを忘れがちだが、
宇宙空間は人体に様々な影響を及ぼす、やっかいな場所。

深刻なものの1つが、国内患者数1200万人ともいわれる骨粗しょう症の宇宙版
骨からカルシウムが抜けて弱くなる骨量の減少。
カルシウム排出が増えて尿路結石になる恐れも。

長期滞在で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と米航空宇宙局(NASA)は
初めて薬による予防効果を調べる。
その最初の参加者が若田さん。

骨は、一部を壊し、新しく作り直すというスクラップ・アンド・ビルドを繰り返し
壊す係は破骨細胞、作る係は骨芽細胞。
閉経後の女性に多い地上の骨粗しょう症は、女性ホルモンが減った影響で
破骨細胞が活発になるなどして、作るよりも壊す方が多くなって起きる。

宇宙の微小重力環境では、体の重みが骨にかかる力の刺激が
ほとんどなくなる影響で、作るよりも壊す方が多くなる。
骨に力をかけることは、カルシウムの沈着に必要な刺激。
地上の骨粗しょう症でも、予防には運動が大切。

宇宙では筋肉も弱くなるので、宇宙飛行士は自転車エルゴメーターや
トレッドミルなどによる運動が欠かせない。
それでも骨量の減少は激しい。

JAXA・宇宙医学生物学研究室の大島博主幹研究員によると、
地上の骨粗しょう症では骨量が年に1—1.5%ほど減るのに対し、
宇宙ではこれが毎月、12倍ものペースで進む。
宇宙に6カ月滞在した場合、地上に帰ってから骨が元の状態に
回復するまで3—4年かかる。

予防効果を調べるのは、「ビスフォスフォネート」という薬。
破骨細胞の働きを抑制する、地上の骨粗しょう症治療ではもっとも有力な薬。
今回は、週に1回服用する飲み薬の予定。
より長期間効果が続く注射薬も、将来試される可能性がある。

長期滞在ではもう1つ、心電図を24時間取り続ける携帯型の医療機器、
ホルター心電計を使う遠隔医療の実験にも取り組む。
将来は、生体リズムの研究につなげる計画。
宇宙ステーションは約90分で地球を1周しており、
地上のような太陽の強い光による昼と夜の24時間周期がない。
これが体調に影響している恐れがある。

薬にせよ、心電計にせよ、地上と同様に宇宙でもうまく働く保証はない。
薬の作用が違うかもしれないし、精密な医療機器は打ち上げ時の振動や
強い宇宙線に耐えなければならない。

宇宙医学の積み重ねの先には、一般的な医療への幅広い応用が見込み。
骨粗しょう症は、「宇宙では時間を加速してテストしているようなもの。
薬や運動による効果の知識を地上の予防医学に生かせる」
大島主幹研究員は期待。
高齢者や長時間勤労者の健康管理、ストレス対策、医師不足に対応した
遠隔地医療や災害医療などへの応用も期待。

一般の人でも気軽に安全に宇宙旅行を楽しめるようになる—
というのは気が早いが、日本の宇宙実験棟「きぼう」では
医学・生物学的な実験も予定。
この分野がどのぐらいの可能性を秘めているのか、科学的な興味は尽きない。
宇宙は、医学でもフロンティアを開くだろうか。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/techno/tec081105.html

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