2009年1月24日土曜日

現場再訪(6)「地域枠」医学生 高い意欲

(読売 1月15日)

地元優先枠で入った医学生が、へき地医療に熱意を持ち始めた。

「将来は、医師になってこの島に戻ってきます」
島根大医学部3年の高梨俊洋さん(20)が力強く語ると、拍手が巻き起こった。
島根県隠岐の島町で、昨年10月に開かれた「地域医療教育シンポジウム」。
パネリストの一人、高梨さんは地元出身。
町で授産施設を運営する斎藤矗一さん(67)は、
「島に帰ってきてくれれば本当にうれしい。崩壊寸前の離島の医療を支えてほしい」

人口約1万6300人の町では、昨年4月から四つの診療所のうち
一つが医師不在になった。
町のテコ入れで半年後に確保したものの、
今春には別の診療所の医師がいなくなる。
中核病院・隠岐病院の産科医は一人で、危険を伴うお産はできない。

高梨さんは、そんな大変さをよく知るだけに、「一日でも早く貢献したい」と意欲。
県内唯一の医師養成機関である同大医学部が、2006年度から導入した
「地域枠」入試の1期生。
受験には、へき地の医療機関などでの研修と、出身地の首長の推薦が必要。
受験できるのは、松江市と出雲市の都市部などを除く県内出身者。
導入から3年がたち、学士入学を含めて32人が学んでいる。

地域枠の学生に将来、へき地の医療機関に勤務する義務はない。
だが「思いは伝わっている。受験段階で地域医療の実情の厳しさを見ており、
地元からの期待も感じている。地域に貢献したいという意欲はとても高い」
と木下芳一医学部長(53)。

授業内容は一般学生と変わらないが、春夏の長期休暇中に、
県内の医療機関で行う医療体験実習への参加を強く勧めている。
数日間、来院患者の案内や補助、診察の様子を観察し、
勤務医から話を聞く内容で、実際に地域枠の学生の参加率は高い。

県中央部、大田市出身の岡田祐介さん(20)(2年)は昨夏、
隠岐諸島・西ノ島の病院で実習。
「古里が好きだし、古里に貢献したいと改めて思った。
実習を通して、勉強の意欲も高まった」

ただ、地域にとどまらず、高度な医療を学んで能力を高めたいという
声があるのも事実。
「島根で働きたい気持ちは変わらないが、理想の医師像はまだ見えない。
他県の先進地域に行って、様々なことを身につけたい」と3年の山口祐貴さん(21)。

地域枠の学生を担当する地域医療教育学講座の熊倉俊一教授(48)は、
「医師が高度な医療技術を身につけることは、地域住民にも大切なことだ」
島根県では、県内のへき地に一定期間勤務した後、
大学病院や都市部の基幹病院に一時的に移り、
大学での研究に従事できる仕組み作りも始まっている。

全国的な問題になっている都市部とへき地の医療格差。
「医師不足の地域で働く医師を育てるモデルを作るには、
10年、20年先を見越す必要がある」(木下医学部長)。
息の長い取り組みが続く。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090115-OYT8T00225.htm

0 件のコメント: