2009年1月24日土曜日

=慶応大医学部の挑戦=

(Japan Medicine 2008年12月22日)

慶応大医学部は、教育環境の充実に向けて情報通信技術(ICT)を
積極的に活用している。
教師側から医学生への一方通行だった従来型の教育体制を見直したのが契機。
特に力を入れるのは動画教材の充実で、
2007年度からは文部科学省の補助を受け、臨床実習を行う医学部5、6年生を
中心に医学生が自由に教材を入手し、活用できる環境整備を加速。

慶応大医学部が教育体制の変革に着手したのは、4年ほど前から。
07年度、文部科学省の現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)に採択。
GPは“グッドプラクティス”の略で、優れた取り組みを選んで
金銭的な支援をするだけでなく、情報提供を通じて、
他大学にも教育改革を促すことを目的。
選考では、教師側からの一方向の従来型教育を見直し、
学生との双方向性を確保しやすい問題解決型学習への転換を図る趣旨が評価。

テーマは、「ICT(Information and Communication Technology)導入による
授業効果の向上」。
効果は認められているものの、膨大な教材が必要で、
授業でカバーできる学習範囲も少なくなるという問題解決型学習の課題をICTで解消。

学内のイントラネットに教材を蓄積し、図書館やラウンジなどの固定端末(PC)から
閲覧できる環境はすでに構築。
現代GPでは、アップルの携帯プレーヤーiPodなどを導入、
医学生がイントラネット上の専用サーバーから教材をダウンロードして、
いつでもどこでも学べる環境を整えた。

04年度から医学教育統轄センター長の天野隆弘氏は、
「特に動画は、言葉で説明するより内容を容易に伝えることができます」
“画像化”を掲げて教育体制を変革する背景には、
医学部教育や卒業後の医師養成の在り方が大きく変化したことがある。

04年度に必修化された新医師臨床研修制度の目的は、
幅広い臨床能力を持つ医師の育成。
天野氏は、「医学部教育とのつながりの中で、授業が従来のままでは
なかなか臨床ですぐに診療を、というわけにはいかない」と指摘。

慶応大では5、6年時の臨床実習の充実に向けて、
毎年20~30人の模擬患者(SP)を養成して診察の仕方を学ばせたり、
シミュレーターというヒト型模型で手技を体験させたりしている。

動画教材は、教育の実効性を高めるために役立てる。
天野氏は、「実際に教育をする前に、シミュレーターを使った手技などの
実際を見せておく必要があります」
自前の視覚教材は70種類超 学内に呼び掛けて制作した自前の動画教材は
70種類を超えた。
天野氏も、専門の神経内科で意識障害レベルの診察のポイントなどを
動画にした教材をSPと協力して制作。

編集方針は、医学生に考えさせること。
集中力が途切れず、何度でも繰り返して視聴できるように、
1教材当たりの時間は10分前後。

製品化された教材も積極的に導入。
知りたい症状や病名を入力すると、該当する情報が一覧表示される
電子臨床情報「Up To Date」を皮切りに、国内外で臨床医に活用され、
診断・治療の最新動向を学べる教材をそろえてきた。

導入を決めたのがクリニカル スーパーライブサーバー(CSL)。
天野氏は、「医学部の6年を中心に、初期研修医も学べるプログラムが
ありますという提案があり、役立ちそうなものを選んで導入」

CSLの動画コンテンツの企画・制作は、ケアネットが行った。
泌尿器科が専門で、週末は訪問診療もする同社・取締役の姜氏は、
「米国などで教育体制の素晴らしさを実体験した医師に、講師を依頼。
教育としてのエンターテインメント性も加味した」

システム開発は、フォルトゥーナが担当。
医学生同士で情報交換ができるソーシャルネットワークサービスの機能があり、
指導医も、学生の視聴状況を確認したり、質問や相談に応じたりもできる。

文科省予算のため、「iPod」は医学生のみに貸し出している。
天野氏は、いずれは初期研修医らにも貸し出すとともに、
CSLのコンテンツも「iPod」に移し、病棟で使えるようにしたいと考えている。
院内のPC端末も現在の15カ所から、最終的には45病棟に設置し、
動画を含めた種々の教材をダウンロードできるようにする。

「医師には、目の前の患者さんを何とかするために、あの本を読めばいい、
この検査をすればいいということを、積極的に行って
問題を解決する姿勢が求められる。
学生のうちからその積極性を身につけてもらうことが重要」(天野氏)。

問題解決型学習の課題を解消しつつ、教育環境を充実させるための
ICT導入は、ほぼ一段落した。
蓄積した教材は随時更新する方針。
医学生らから人気があり、繰り返し視聴されているかなどの指標をもとに
教材を評価して、継続的な質の底上げを図っていく。

http://www.m3.com/tools/MedicalLibrary/jiho/200812/trend1.html

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