2009年1月20日火曜日

参謀が明かすオバマのネット戦略

(日経 2008-12-25)

オバマ次期大統領の勝因に、「インターネットの有効活用」が挙げられる。
当初、政治経験の長いヒラリー・クリントン上院議員やマケイン上院議員より
知名度や献金収集力で劣っていたが、ネット戦略が奏功し挽回。
ネットを多用したことが、「政治に無関心」とみられてきた若者層を掘り起こす
という副産物も生んだ。

オバマ陣営で、ネット戦略の中心的役割を担った
ネット広告会社ブルー・ステート・デジタル社のトーマス・ゲンセマー氏に聞いた。

—オバマ氏の選挙戦で特徴的だったことは。

インターネットを活用したことで、効率的に人と人を結びつけ、
支持者を加速度的に増やすことに成功。
候補者の主張を伝えるウェブサイト、支持を喚起する電子メール、
支持者と支持者を『友達』としてつなげて、次に近所で行われる集会への参加を
呼び掛けるソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などのツールを併用」

ネット活用で、選挙の経済学が変わった。
オバマ陣営がネットを通じて集めた献金額は、5億ドル(約450億円)。
650万件のネット献金のうち、600万件が100ドル以下の小口献金。
小口献金は、ダイレクトメールや集会を通じて集めていたが効率が悪く、
高額献金者だけを集めた大型パーティーに集金力でかなわなかった。
ネットの登場で、多くの人数から小口の献金を短時間で集めることが可能になり、
少ない人数から多額の献金を集める献金モデルに対抗できる」

—具体的にどのようなことをしたのか。

「一度集会に参加した人の電子メールアドレスは、必ず記録。
会場の入り口でフォームに記入、スタジアムの掲示板にアドレスを表示して
携帯からショートメールを送ることを呼び掛け、
イベントへの参加券と引き換えに電子メールの登録を求めた。
オバマ陣営には、130万件以上の電子メールアドレスが登録」

アドレスを入手すれば、オバマ陣営とその参加者の『交流』は継続。
候補者の主張や次の集会情報など、電子メールで届く。
『明日、忘れずに投票所に行ってね』というような古典的なメッセージを、
効率的に大量の支持者に伝える」

—オバマ陣営は、若者層の取り込みに成功した。

「彼らは、フェースブックやマイスペースなどのSNSを
日常的に使っている世代、選挙活動にもSNSの要素を取り入れた。
候補者の主張を載せたサイト『バラクオバマ・ドット・コム』とは別に、
支持者を『友人』としてつなげるSNS専用のサイト
『マイバラックオバマ・ドット・コム(通称・マイボー)』を設けた。
支持者が自己紹介のページを作ったり、友人と支持集会の情報交換できる。
クレジットカードで簡単に献金できるようにしたことが、小口献金者の増加に」

「SNSを使う若者層は、気に入った情報はネットですぐに共有したい世代。
それは、政治でも同じ。
候補者や演説を気に入れば、共有したがる。
SNSのような共有を促すツールを提供すれば、情報はどんどん広がっていく。
大衆の『共有したい』という意志があって、初めて可能に。
我々は、インターネットを通じて共有しやすくする技術的な屋台骨を提供。
若者が参加意識を高めたのは、オバマ氏が魅力的な候補者だったから」

—オバマ陣営のネット戦略チームについて教えてほしい。

SNSの最大手フェースブックの共同創業者クリス・ヒューズ氏
ブレーンの1人として参加。
ネット戦略を支える技術は、我々(ブルー・ステート・デジタル)が提供。
『ニューメディア(新媒体)』を担当するチームが設置、80人ほど働いていた」

—大統領就任後もオバマ氏は、国民との対話にネットを多用するか。

「もちろん。ネットを使ったコミュニケーションをフル活用する初の米大統領に。
選挙活動を通じて、オバマ氏や側近たちは、
ネットが国民にどのようにメッセージを運ぶのかをじっくり学んだ。
(従来の政治家のように)ネットを必要以上に恐れることはない。
SNSや動画共有サイト『ユーチューブ』などを使って、
国民との対話に力を入れる可能性は高い」

「ウィキノミクス」、「デジタルチルドレン」などの著作、米ネット事情に詳しい
ダン・タプスコット氏は、来年誕生するオバマ政権を
「ネット大統領時代の到来」と呼ぶ。
ラジオ演説「炉辺談話」で、国民へ直接訴えることを重視した
フランクリン・ルーズベルトが「ラジオ大統領」、
テレビ・ディベートで好印象を残したことが勝因になったといわれる
ジョン・ケネディが「テレビ大統領」とすると、
ネット時代を制して大統領の座を射止めたオバマは「ネット大統領」。

タプスコット氏も、オバマ氏は国民との対話にネットを積極利用。
ネットを通じて、草の根の支持を徹底的に開拓してきたオバマ氏が、
「『今まで支援ありがとう。今後は、ただ動向を見守っていて』
という姿勢を見せた途端、支持を失う」。
テレビやラジオのような一方的なメッセージ発信ではなく、
今まで通り支持者との対話はネットを通じた双方向なもの。
「政策を決める前に3日間、ネット上で国民からの意見を自由に受け付ける
『オンライン・タウンミーティング』などを行うのではないか」

ネット時代は、「隠しだて」や「前言撤回」のできない時代。
テレビは一度見逃したら、再度確認する機会はほとんどなかったが、
今では動画共有サイトを使って何回でも視聴できる。
政治家が失言をして、「そんなことは言っていない」と後から否定しても、
現代の選挙民には確認する方法がある。
「事実は、事実と認めることが大切。ばれることを隠すのは逆効果。
間違えを犯した場合は、素直になぜそういうことになったのかを伝える努力が、
逆に好感を呼ぶこともある」(タプスコット氏)。

オバマ大統領誕生まであと1カ月を切った。
「変革」を旗印に、景気対策に取り組む同氏のネットとの付き合い方にも注目。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/ittrend/itt081224.html

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