(日経 2009-01-09)
ハイテク分野の2009年を占ってみると、生命科学・バイオ分野では、
ゲノム(全遺伝情報)にとどまらない、複雑で多様な生命現象全体を研究する
「オミックス」の時代を本格的に迎えそう。
宇宙分野は今後の基本計画がまとまるが、厳しい経済情勢が逆風に。
巨大科学だったゲノム解読は、今や珍しくなくなってきた。
米国、英国、中国によるプロジェクト「1000人ゲノム計画」の解読データが
公開されようとしている。
1000人分のゲノムを解読、個人差を詳しく調べて病気の研究に役立てる。
解読期間は実質わずか2年ほど。
ヒトのゲノムは、DNAを構成する塩基分子の配列が1セット30億個(塩基対)。
1990年に始まった国際ヒトゲノム計画は、これを13年かけて解読。
解読装置(シーケンサー)の技術革新は著しく、昨年1月に始まった
1000人ゲノムの当初計画では、1日に平均82億塩基対、
1000人分の6兆塩基対(1人2セット)を2年という速さ。
粗い生データの公開が近く始まるうえ、人数も1200人に増える見通し。
ゲノム解読は、データの大量生産時代に入った。
米パシフィック・バイオサイエンシズ社は、30億塩基対をたった2分で解読する
シーケンサーを、2010年に製品化すると発表、大量生産は加速する。
生命現象はゲノムにとどまらず、たんぱく質や代謝物質など
様々な分子レベルの要素の複雑な絡み合いまで理解することが重要。
ゲノムだけでも、データは膨大でまだまだ奥が深いが、
他の要素のデータ蓄積も急速に進んでいる。
こうした研究全体を、オミックスと呼ぶ。
ゲノムの研究をゲノミクス(Genomics)、生体のたんぱく質全体の研究を
プロテオミクス(Proteomics)、共通する末尾の「omics」を取った名称。
日本でも、ヒトのゲノムやたんぱく質などのデータベースを統合する
「ヒトゲノムネットワークプラットフォーム」を、国立遺伝学研究所で構築。
同研究所副所長の五條堀孝教授は、オミックス時代に向けて
「分子レベルの情報を網羅的に取っていくだけでなく、
データベース同士をつなぐ技術、解析する技術が重要で、
バイオインフォマティクス(生命情報工学)の人材育成も必要」
欧米に加え、中国が急速に力を入れており、
データ記憶設備の計画だけ見ても中国は日本の20倍以上。
研究を医療につなげる国際競争で日本が打ち勝つには、一層の強化が必要。
宇宙分野では、昨年の宇宙基本法施行を受けて
今年5月に宇宙基本計画がまとまる。
すでに方向性は出ており、観測などの衛星、ロケット、有人宇宙活動、
科学探査機、防衛利用や宇宙産業振興など手広いラインアップになりそう。
日本は、宇宙航空研究開発機構の予算が米航空宇宙局(NASA)の10分の1、
欧州宇宙機関(ESA)の半分など規模が小さい。
実用衛星を国際入札とする1990年の日米合意で、
国内衛星メーカーは大打撃を受け、
ロケット打ち上げ期間が限られるなど国際競争でも不利。
抜本的な選択と集中をすればいいというわけではないが、
幅広く手掛けるなら、どれも中途半端で非効率にならないか懸念。
09年度の宇宙関係予算(政府案)は3488億円で、10.4%増、
額で約328億円の増加。
この半分に相当する額が防衛関連で伸び、そのほとんどは防衛省の
弾道ミサイル防衛(BMD)関連の大幅増による。
基本計画の推進には、10年度以降の予算増が焦点になるが、
厳しい経済情勢の中、宇宙以外に優先すべき課題があるという声も。
予算を増やすうえでは、一時しのぎではなく将来の発展につながる内容が期待。
http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/techno/tec090108.html
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