2009年1月22日木曜日

【展望09 岩手】

(読売 2009年1月19日)

雪が時に激しく降るなか、九戸村の公民館には、
開会の30分前から次々と住民が集まってきた。
県立病院の新しい経営計画案の説明会。
村唯一の医師がいる地域診療センターでは、
19床を全廃する無床化が計画。

「11月の発表で、4月に実施するというのは唐突で拙速だ。
私たちにも考える時間がほしい」、
「医師が少ない地域にこそ県立の役割がある。切り捨てではないか」。
2時間余りにわたった会では、10人が質問に立ち、拍手がわいた。

県医療局長らと並び、九戸センター長も兼ねる佐藤元昭・二戸病院長(59)が
説明する声を一段張り上げた。
「皆さん、医師不足を実感されないのが残念だ。
ベッドがあれば医師は来ません。無床化すれば来る」。
医師招請に駆け回る佐藤院長の言葉に、会場は一瞬、静まりかえった。

常勤医が1人しかいない九戸は、二戸からの外来診療応援と、
二戸と盛岡市の中央、医大の計3病院による派遣当直で診療を支えている。

医療局創業の精神は、「県下にあまねく良質な医療の均霑(てん)を」。
聞き慣れない言葉に広辞苑をひくと、
「生物が等しく雨露の恵みに潤うように、各人が平等に利益を得ること」
無医村に医療を、と始まり重ねてきた、岩手に暮らす苦闘は今も続く。

「通院のお客様、お体の具合が悪いお客様は気軽にお声をかけてください」
朝の車内に優しい声が響いた。
盛岡駅着午前9時のIGRいわて銀河鉄道の上り電車には、
県内に入った金田一温泉駅から世話役のアテンダントが乗る。
昨年11月5日から平日に始めた「地域医療ライン」サービス。

二戸市、一戸町から盛岡市内へ通院する人を対象に、
あんしん通院切符の発売、ワンマン電車内で接客にあたるアテンダント、
最寄り駅の無料駐車場と盛岡でのタクシー手配を組み合わせて、
「自宅から病院まで」を主に公共交通で結ぶ。
全国の鉄道でも先進的な取り組みだ。

「地域の医療機関だけでは対応しきれない患者さんがいるが、
高齢や病後ではマイカー運転もままならない。
通院は、本人や家族の大きな負担だ。
一方、公共交通は地域に欠かせないとの認識が広まってほしい」と、
企画、準備をした同社の米倉崇史さん(26)。
開始2か月で339枚の切符が売れた。
1日平均10人、多い日は20人近い利用があり、徐々に広まって、
沿線のほか軽米町や青森県内からの人もいる。

アテンダントは、3人が交代の有償ボランティア。
田中敦子さん(47)は、駅ごとに通院客がいないか、
ひざ掛けを持って車内を回り、話しかけた。
水のペットボトルやカイロなどを携えて乗務し、車内からタクシー会社へ
利用人数を携帯メールで送信する。
指定3病院なら、利用客の自己負担は200円。

小鳥谷駅から乗った地蔵堂民之助さん(76)は、
「妻も利用する。安心して通える」と話し、到着ホームで待っていた
タクシー運転手に導かれ、医大へ向かう車に乗った。

広い県内で、医療の厳しくて多様な現実、
雇用をはじめとする経済の動向、自治の動き--。
総選挙の年に、暮らしに身近な地域の課題、朗らかな話題と元気を支局、
通信部の記者とともに伝え、皆さんと考えたい。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=86462

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