(読売 2009年1月19日)
雪が時に激しく降るなか、九戸村の公民館には、
開会の30分前から次々と住民が集まってきた。
県立病院の新しい経営計画案の説明会。
村唯一の医師がいる地域診療センターでは、
19床を全廃する無床化が計画。
「11月の発表で、4月に実施するというのは唐突で拙速だ。
私たちにも考える時間がほしい」、
「医師が少ない地域にこそ県立の役割がある。切り捨てではないか」。
2時間余りにわたった会では、10人が質問に立ち、拍手がわいた。
県医療局長らと並び、九戸センター長も兼ねる佐藤元昭・二戸病院長(59)が
説明する声を一段張り上げた。
「皆さん、医師不足を実感されないのが残念だ。
ベッドがあれば医師は来ません。無床化すれば来る」。
医師招請に駆け回る佐藤院長の言葉に、会場は一瞬、静まりかえった。
常勤医が1人しかいない九戸は、二戸からの外来診療応援と、
二戸と盛岡市の中央、医大の計3病院による派遣当直で診療を支えている。
医療局創業の精神は、「県下にあまねく良質な医療の均霑(てん)を」。
聞き慣れない言葉に広辞苑をひくと、
「生物が等しく雨露の恵みに潤うように、各人が平等に利益を得ること」
無医村に医療を、と始まり重ねてきた、岩手に暮らす苦闘は今も続く。
「通院のお客様、お体の具合が悪いお客様は気軽にお声をかけてください」
朝の車内に優しい声が響いた。
盛岡駅着午前9時のIGRいわて銀河鉄道の上り電車には、
県内に入った金田一温泉駅から世話役のアテンダントが乗る。
昨年11月5日から平日に始めた「地域医療ライン」サービス。
二戸市、一戸町から盛岡市内へ通院する人を対象に、
あんしん通院切符の発売、ワンマン電車内で接客にあたるアテンダント、
最寄り駅の無料駐車場と盛岡でのタクシー手配を組み合わせて、
「自宅から病院まで」を主に公共交通で結ぶ。
全国の鉄道でも先進的な取り組みだ。
「地域の医療機関だけでは対応しきれない患者さんがいるが、
高齢や病後ではマイカー運転もままならない。
通院は、本人や家族の大きな負担だ。
一方、公共交通は地域に欠かせないとの認識が広まってほしい」と、
企画、準備をした同社の米倉崇史さん(26)。
開始2か月で339枚の切符が売れた。
1日平均10人、多い日は20人近い利用があり、徐々に広まって、
沿線のほか軽米町や青森県内からの人もいる。
アテンダントは、3人が交代の有償ボランティア。
田中敦子さん(47)は、駅ごとに通院客がいないか、
ひざ掛けを持って車内を回り、話しかけた。
水のペットボトルやカイロなどを携えて乗務し、車内からタクシー会社へ
利用人数を携帯メールで送信する。
指定3病院なら、利用客の自己負担は200円。
小鳥谷駅から乗った地蔵堂民之助さん(76)は、
「妻も利用する。安心して通える」と話し、到着ホームで待っていた
タクシー運転手に導かれ、医大へ向かう車に乗った。
広い県内で、医療の厳しくて多様な現実、
雇用をはじめとする経済の動向、自治の動き--。
総選挙の年に、暮らしに身近な地域の課題、朗らかな話題と元気を支局、
通信部の記者とともに伝え、皆さんと考えたい。
http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=86462
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