「フィンランド・カルタ」と呼ばれる手法を、企業の新入社員研修などで紹介する、
ティーズスキル教育技術研究所の諸葛正弥代表(34)。
コミュニケーション力の前提となるのは、自分の考えを整理すると
同時に、できるだけ視野を広げて相手の立場を理解すること。
諸葛氏は、フィンランドの小学校の授業などで用いられている「カルタ」作りを提案。
頭の中で思ったことは、それだけではあやふやなまま終わってしまう。
カルタはキーワードから、関連する言葉を実際に書いていくことで視覚化し、
問題点を明らかにして視野や発想を広げていく狙い。
例えば、「春」という言葉から思いつく言葉を、
数を制限せずに書き出し枝状につなげていく。
「桜」、「散歩」、「季節」を連想して書いたら、
そこから連想する言葉を順々につなげる。
季節から、「気温」、「温暖化」、「フルーツ」、
桜からは「花見」といった風に発展。
ここで重要なのは、単なる連想ゲームではなく、
「なぜその言葉がつながるのか、説得力のある理由を3つ考える習慣を持つこと」
例えば、「好きな果物」で「ミカン」を連想するのであれば、
なぜという答えを「甘くてさわやか」、「値段が比較的安い」、
「ビタミンCが豊富」など3つ考える。
何となくとか、昔から好きだったからとかではなく、
他人が納得できる理由を挙げることで、
自分の思考を相手の視点に立って説明できる。
諸葛氏は、こうしたトレーニングは「ビジネスの現場でも大変役にたつ」
例えば、ノートパソコンの新商品をある保険会社に売り込みたい場合。
新商品Aの特徴として、「ノートパソコン」、「軽量化」、「低価格」などを書き出し、
そこから発想する言葉の枝をつなげていく。
「移動なし」と「持ち運び」のように、相反する言葉が出てきた場合は
「⇔」を用いて、関係を明確にする。
商品の魅力は何か、欠点は何か、どう売りたいか、その理由などを整理する。
自分なりの売り込みの仕方を思い浮かべることができる。
顧客Aとして、保険会社側の特徴をカルタ化し、
どういう性質を持つ顧客かを確認する。
発想を広げていった結果、2つのカルタで同じような言葉が出てきたら、
そこが両者の接点であり、売り込みの上でポイントになる。
接点が見つからなければ、商品と顧客にどのような所で距離があるのか、
それを埋めるにはどうすればいいかが明確になる。
商品の魅力を訴えるだけでは、顧客の心には必ずしも通じない。
顧客の立場も理解することで、購入に結び付くような販促を考える。
カルタを作る時は大勢で相談せず、担当者がそれぞれ行うのが原則。
各人が作った後で持ち寄って会議をすると、
「人によって発想が違うことがわかり、自分が考えもしなかった
思わぬ発見があることも多い」
諸葛氏は、就職活動を行う学生がこうしたカルタを作ることも勧める。
自分自身を中心におき、自分の武器、苦手なこと、やりたいことなどを
線でつなげていく。
同時に「なぜそれが武器なのか」などを、3つずつ書き出す。
就職希望先の企業について特徴をカルタ化する。
なぜ自分がその企業に就職したいのか、
就職した場合自分はどんなことができるのか、などが整理され、
面接の時には大いに役立つ。
企業からみると今の学生は、話が通じない、何を聞いても「別に」とか
「何となく」といった言葉しか返ってこない、というイメージ。
フィンランド・カルタは、企業と学生のコミュニケーションを図る上でも有効。
慣れてくれば、頭の中で枝を伸ばして考えれば同様の効果がある。
カルタ以外にも、たとえば「納豆」をキーワードに1分間即興でスピーチしたり、
「石油」「割りばし」「お使い」といった関連性の少ない3つの言葉を使って
最も短い文を作ったりすることも、1つのキーワードから視点を広げる練習に。
フィンランドの教育方法が注目を集めているのは、
子どもの読解力に関する国際調査で高い結果が出ているため。
経済協力開発機構(OECD)が、15歳を対象に行っている
学習到達度調査(PISA)では、読解力分野で
フィンランドは2000年、03年が1位、06年も2位。
日本は8位、14位、15位と低下傾向。
自分の意見と異なるものについて理解しているかを問う問題で、
両国で大きな差がつく。
「日本語は、聞き手が相手の言いたいことを察して理解する言語体系。
相手に伝える論理的思考力に乏しくなってしまう傾向」(諸葛氏)
フィンランドの公立小学校では、「カルタ」を作成して情報の関連性や知識を
視覚的に整理する授業が取り入れられている。
必ずしも手法が体系的に確立されているわけではなく、
現場教師の権限に任される部分も多い。
「フィンランドメソッド」を紹介する本は最近増えているが、
「具体的にどう分析し解釈するかは、研究者によってかなり違いがある」
◆もろくず・まさや
1974年、東京都生まれ。進学塾講師、建築設計事務所勤務などの経験を経て、
2003年にフィンランドの教育手法に興味を持ち、
05年に教育技術のコンサルティング会社を設立。
06年にティーズスキル教育技術研究所に社名を変更。
著書に、一般向けの「フィンランドメソッド実践ドリル」など。
ビジネスパーソン向けの解説書の出版も計画。
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