(読売新聞 2009年1月13日)
写真家の小野庄一(45)が、百寿者の撮影を始めたのは、1991年。
鹿児島県屋久島で樹齢数千年の縄文杉を目にし、
最も長く太陽の光を浴びた「人間」を撮ろうと思いたった。
全国で150人以上。その出会いを経て今、小野は思う。
「21世紀の百寿者は、18年前とは別の生き物だ」
101歳の女性は乳がんを手術した。
100歳の男性はパソコンで孫とメールで会話する。
撮影のため薄化粧すると、途端に目を輝かせ、
鏡に映った自分に見入る女性……。
時間を超越した「長老」のたたずまいはない。
日常を生きる元気な高齢者が、ファインダーの先にいる。
小野が生まれた63年、全国で153人だった百寿者は、
現在、3万6000人超。
100年前に生まれた女性の51人、男性の267人に1人が
百寿者になった計算で、増加率は世界トップレベル。
2050年の推計百寿者は、なんと70万人に。
寿命の延びは、国立社会保障・人口問題研究所の予測を超え続けた。
「限界が見えない。寿命があるという前提自体に無理があったのでは」と
金子隆一人口動向研究部長。
軽部征夫・東京工科大学長(生体工学)も、
「子孫を残す、という遺伝子の使命を超えて長寿を手に入れた人間は、
極めて特異な生物」と指摘。
岩手県釜石市の下川原孝(102)は、99歳からマスターズ陸上大会に参加し、
昨年、100歳以上の砲丸投げで5メートル11の世界新記録を出した。
元体育教諭だが、練習といえば、毎日4回の腹筋と20回の腕立て伏せ、
30分余の散歩。「自分を熟知して、こまめにケアをすることが大切」
高齢者の若返りは、データでも示されている。
東京都老人総合研究所の鈴木隆雄・副所長らが、秋田県大仙市で
92年と02年の65歳以上を比較。
握力、通常歩行速度など基本的な運動能力は、10年間に3~11歳若返り、
「その傾向はさらに進む」
姫路少年刑務所(兵庫県)の面接室。
窃盗を重ね、出所する20歳代の青年の前に現れたのは、
105歳のボランティアの面接委員、黒田久子。
教職を経て、52年前から3200人以上の受刑者の声に耳を傾けてきた。
「親が悪いんだ」と訴える青年には、「育てる苦労も知らんで」と一喝。
「一人ひとり違う。相手におうたように話す」という黒田の対話は
時に数時間に及ぶ。
「待ってくれる若者がおることが生きる支え。人間は100歳で一人前」とも。
老化と共に低下する記憶力や認知機能。
しかし現代の脳科学は、「脳を使うことで、神経細胞のネットワークが活性化される」
(甘利俊一・前理化学研究所脳科学センター長)
長寿の最長記録は、フランス・アルルの老人ホームで97年に亡くなった、
ジャンヌ・カルマン夫人。122歳5か月。
カルマン夫人の研究者で、国立保健医療研究所の
ジャン・マリー・ロビン研究部長が、最も注目する国がある。
フランスの4・8倍の速度で高齢社会に突入した、最長寿国??ニッポン。
「家族関係や社会構造が影響しているのでは?」。
今年4月、ロビン部長は日本で共同研究を開始する。
「老いの形」が急速に変わっている。
長い老後をどう生きるか?どんな知恵や仕組みが必要か?
直面する課題をシリーズで探る。
◆百寿者◆
100歳を超える高齢者のこと。
米寿(88歳)や白寿(99歳)などと並び、長寿の祝いの意味を込めて呼ぶ。
最近、厚生労働省の長寿研究などで用いられ、名称として一般化。
http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=86101
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