2009年1月31日土曜日

グリーンITの本命「超電導送電」

(日経 2009-01-23)

ITが社会に浸透すれば、煩雑な仕事を効率化でき、
省エネにつながるという話は誤解を含んでいる。
パソコンが普及するにつれ、社会の中にまた新たに仕事が発生。
扱うデータも、文字から写真、動画へと大容量化し、
エネルギー消費量は増加の一途をたどる。

インターネット総合研究所(IRI)の藤原洋所長は、
「インターネットのデータを預かるデータセンターでは、
電気代の負担が最大の悩みだ。
電力会社からは大口顧客として表彰されたが、
電気使用量を減らす技術開発が急務だ」

そこに、救世主として登場したのが高温超電導直流送電
液体窒素で冷やすと、電気抵抗がゼロになるケーブルを使う。
データセンターの電気使用量を40%も減らしてくれる。
テレビが全面的に「地デジ」に変わる2011年7月より少し前に、
この送電システムが世界に先駆けて日本のあるデータセンターで使われる。

藤原所長は昨年7月、世界で唯一、高温超電導の直流送電を研究開発する
中部大学に、5年間で6億円の自己資金を出すことを決めた。
天体望遠鏡の部品を作る目的で、05年に設立したナノオプトニクス研究所の
新規事業として予算を投じた。

発電所で作る交流の電気は、交流で送るのが当たり前。
電力会社は、高温超電導ケーブルを使えば省エネになると期待するが、
金属ケーブルを高温超電導ケーブルに交換して交流を送ることを検討。
東京電力は、住友電気工業、前川製作所などと組んでこの技術を開発。

しかし、高温超電導送電を研究している中部大の山口作太郎教授は、
「直流にしないと、高温超電導の良さを最大限に生かせない」
電力会社にいくら直流の利用を勧めても、まったく受け入れてもらえない。

電力会社は、直流の良さは認めつつ、これまでの交流中心で敷かれた
インフラを、直流に変えるには周辺機器や技術もすべて見直す必要。
山口教授もその事情は理解し、いきなり数千キロメートルの長距離送電に
直流を勧めるのは時期尚早。

そこで、変電所とデータセンターを結ぶ300-400メートルの短距離送電。
データセンター内の主要な配線も併せて置き換えると、
データセンターの電気使用量を一気に40%も削減。
従来の送電による交流損失と、データセンター内で発生する
熱を冷ます空調を、大幅に削減できるため。

藤原所長は、高温超電導直流送電の事業化に賭けた。
実用的なシステムが完成すれば、自分の会社も助かる上、
システムを国内と海外で販売できる。

山口教授は07年、20メートルの設備を作って送電実験に成功。
住友電工が開発した高温超電導ケーブルを使い、
ケーブルを液体窒素温度に保つ断熱鋼管はJFEスチール、
冷却システムは前川製作所が開発に協力。

中部大は、ナノオプト研からの資金提供を受け、
学内に200メートルの送電システムを作って実験に着手。
データセンターと変電所の間に400メートルのシステムを設置し、
11年3月末までには利用開始を目指す。

データセンターに続く用途も、すでに考えている。
藤原所長と山口教授らは、太陽電池に高温超電導直流送電システムを
つなぐ構想を持っている。
タービンを回して交流を作る発電所と違い、太陽電池や太陽熱発電、
燃料電池は直流を発生する。
「直流は、直流のまま機器に流す方がよいに決まっている」(山口教授)。
発電所の無い山で、太陽電池と天体望遠鏡をつなぎたいとも考えている。

高温超電導物質は、1986年に発見されたが、
なかなか実用化に結び付かなかった。
直流送電が導火線になるかもしれない。
世界に誇る日本発の省エネ技術と言えるだろう。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/techno/tec090122.html

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