2009年9月22日火曜日

社会人基礎力(3)患者の心考える医師に

(毎日 9月10日)

社会人になるには、マニュアルに頼らず、
自分の頭で考え抜く力も必要。

会議室の一角に、夫婦役の高齢者2人と医学部の男子学生(25)が
向き合って座る。そのやり取りを、ビデオカメラが撮影。
「ご主人は免疫が弱って、帯状疱疹が出ている可能性があります」

学生の診断に対し、患者の妻役の女性が尋ねた。
「免疫が弱ってるっていうと……」、
「もしかすると、悪性腫瘍ということもありえます」
「がんですか」
予期せぬ宣告に、夫婦役の2人は言葉を失った――。

岐阜大学病院で、医学部5年生8人が、ボランティアの市民十数人と、
模擬診察による実習を行っていた。
実際に診察はしない。
重い病気を伝える際、患者がパニックにならないように
説明するなど、コミュニケーション技術の訓練。

模擬診察した学生は、「帯状疱疹とは何かの説明が足りなかった」
と反省。
担当の藤崎和彦教授(49)は、「『驚かれたと思います』とか
『心配ですよね』と患者に寄り添う言葉がほしかった」と助言。

実習では、患者の年齢や症状に応じ、100例以上のシナリオを
掲載した教科書を使う。
患者の訴えや疑われる病名は記されているが、台本のように
セリフまでは書かれておらず、学生は自分の言葉で
病状を説明しなければならない。

日本の医師国家試験には実技がなく、
コミュニケーション教育の歴史は浅い。
藤崎教授は、「シナリオで意思疎通の形を学びながら、
自分なりに『医療の心』を考えてほしい」と期待。

経済産業省が提唱する社会人基礎力の「三つの能力」の一つに、
「考え抜く力」がある。この力は、
〈1〉現状分析に基づく「課題発見力」、
〈2〉課題解決に向けた「計画力」、
〈3〉新たな方向性を生み出す「創造力」の3要素で構成。

今年度から同省のモデル大学となった岐阜大学は、
医学部を中心に社会人基礎力の育成に取り組む。
「医学書の知識は、どんどん古くなる。
これからの医師や看護師は、自分の頭で考えて問題を解決できる
人材が求められている」と
鈴木康之・同大医学教育開発研究センター長(53)。

模擬診察の実習でも、学生は患者と5段階の
「LEARN」を考え抜く。
患者の話を傾聴する(listen)、わかりやすく説明する(explain)、
相互に認め合う(acknowledge)、最適の治療法を勧める
(recommend)、今後協力していくため交渉する(negotiate)――。

模擬患者の1人、小野茂登子さん(75)は、夫をがんで亡くす前、
治療法を医師と十分相談できなかったことが心残りで、
ボランティアに参加。
「患者は、医師の説明に疑問を持っても、言葉が出てこない。
若い医学生の方々には、そこを理解してほしい」

考える力を持つ医師を育成する取り組みに、患者の期待がかかる。

◆模擬診察

医師や医学部生が模擬患者に対して行う問診形式のトレーニング。
1回10分程度行い、終了後、教員や他の学生、
模擬患者が評価を述べる。
模擬患者はシナリオを自分で選び、練習して臨むが、
医師役となる者はその場でシナリオを知らされる。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090910-OYT8T00184.htm

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