2009年9月20日日曜日

社会人基礎力(1)脱「指示待ち」実社会で学ぶ

(毎日 9月8日)

指示待ち人間にならないよう、学生の主体性を鍛える大学。

広島経済大学の会議室。
2人の学生が1枚の企画書を見せると、
社会人の男性が厳しい口調で次々と尋ねた。
「当日必要な備品は?」、「誰が用意するの?」、
「お客さんはどうやって誘導する?」、「誰をどこに配置するんだ?」

同大の学生プロジェクト「FLP」が企画した
Jリーグ・サンフレッチェ広島2選手のトークショー。
10日後、市内の大型商業施設で開くため、
サンフレッチェ企画部長代理の森脇豊一郎さん(36)
打ち合わせに訪れていた。

FLPのリーダー、3年生の世羅芳樹さん(21)と
副リーダーの2年生河津宏祐さん(20)は、
質問に即答できず、言葉に詰まった。

「何かあったら、お客さんに迷惑がかかるんだぞ。
ちゃんとした『運営マニュアル』を作ってくれ」
「わかりました」。世羅さんらは表情を引き締めた。

FLPの活動は、実践的な人間力を養う同大の教育プログラムの
一つで、メンバーは1~4年生22人。
地元企業と連携したプロジェクト型学習として、
サンフレッチェの若いファンの拡大と観客動員数増加を目指し、
様々なイベントを行っている。

「イベントは、準備のスケジュールが一番大事。
何をいつまでにやるのかを考えてほしい」と森脇さん。
世羅さんは、「どこかに『自分たちは学生』という甘えがあった。
社会人の責任の重さというものを再認識した」と反省。

社会で働くために、皆が備えておくべき能力――。
経済産業省は、「社会人基礎力」と名付け、
2007年度から全国の大学でモデル事業。
広島経済大は、昨年度からモデル大学となり、
FLPの活動もその一環。

同省産業人材政策室は、社会人基礎力が求められる理由、
〈1〉ビジネスの競争激化で、若手社員に高い能力が求められている
〈2〉若者に、クラブ・部活動などの不参加が増え、
コミュニケーションが希薄化しつつある
――などと分析。
「特に企業側からの要請が大きい」(内野泰明・同室長補佐)。

社会人基礎力は、「三つの能力・12の要素」に分類。
能力の一つが、指示待ち人間にならず「前に踏み出す力」。
物事に進んで取り組む「主体性」、他人を巻き込む「働きかけ力」、
目標を設定し、着実に目指す「実行力」の3要素で構成。

広島経済大では、FLPのほか、インドネシアでの開発支援など
19のプロジェクトが進行中だが、
これらは前に踏み出す力の養成が目的。

森脇さんの指導を受けたFLPのメンバーは早速、
必要な備品をリストアップ。
商業施設の担当者と相談を重ね、
ステージやマイクなどは借りることに。
当初、紙1枚だった企画書を書き直し、要員の配置や進行表、
地震・火災時の対応まで盛り込んだ12ページの
詳細な運営マニュアルを作り上げた。

トークショー本番。
人気者の槙野智章、森脇良太両選手に会えるとあって、
事前に予想した300人を上回る400人以上が来場。
事故もなく、大盛況のうちに終わった。

選手に握手してもらい、満面の笑みで帰って行く子どもたち。
世羅さんは、「至らない点も多かったが、これだけの人が来てくれて
達成感を感じた」と感慨深そう。

◆対人関係の能力重視

社会人基礎力は、社会に出た時に適応できる力を身につける
という意味で、「キャリア教育」や「学士力」とも一部重なるが、
目的が違っている。

キャリア教育は、主に小学生から高校生を対象とし、
将来の進路を自分で決められるよう勤労観を育てる。
文部科学省は、コミュニケーション能力や課題解決能力の習得も
含めているが、一般的には地域での職場体験や進路学習を指す。

学士力は、中央教育審議会が
「大学生が卒業までに身につけるべき力」として2007年に示した。
学生の質の低下を防ぐのが最大の目的、
コミュニケーション能力や情報活用力などの技能、
異文化や社会についての知識など、
4分野13項目の習得を求めている。

社会人基礎力は、実社会で必要なコミュニケーション能力に重点。
今まで高校や大学が、あまり意識して教えてこなかった
「他人に働きかける力」、「周囲との関係を理解する力」、
「ストレスに対応する力」など、3能力12要素を掲げている。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090908-OYT8T00244.htm

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