(読売 9月24日)
多角的に農業をとらえる人材が、農業高校から羽ばたく。
こうべを垂れた稲穂が風にそよぐ。
収穫まで2週間に迫った宮城県農業高校の実習田では、
穂をかき分ける生徒たちの声が響きわたっていた。
化学肥料を使わずに栽培した「ひとめぼれ」の生育を観察する
農業科3年の授業。
稲穂の間隔が異なる田から数株を引き抜き、
茎の数や穂の長さを比較。
指導の佐藤淳教諭(36)は、生徒から上がってくるデータを見て、
「稲の生える間隔が広い方が日当たりはよく、茎の数が多い」
作業で日に焼けた嶺岸和弥君(17)は、
「農業は、手を掛けるほど結果が出るので楽しい」と笑み。
同高は今年度、文部科学省が専門高校の研究を支援する
「目指せスペシャリスト」に指定。
減農薬や無化学肥料によるコメの栽培方法をマニュアル化し、
米粉を使った商品開発を手がけ、宮城米の消費拡大を図る。
稲の生育診断も、一連の計画のプロセス。
「ササニシキ」、「ひとめぼれ」といった品種を
世に送り出してきた宮城県だが、今では次々に登場する
ブランド米に押され、地盤沈下が進んでいる。
佐藤教諭は、「環境に優しく安全なコメ作りをマニュアル化できれば、
付加価値のある農業を地域に伝えることができる」と、
米どころの復権を夢見る。
目指せスペシャリストを申請した背景には、
「環境や食品など、関連した分野から農業を理解できる
人を育てたい」という高校側の思い。
2003年度から3年間、目指せスペシャリストの支援を受けた
熊本県立鹿本農業高校では、生徒たちの発想から、
米粉と特産のメロンで作る「高校生のコメロンパン」が誕生。
首都圏の百貨店にも出荷し、ヒットを飛ばした。
地域の農産物をいかに売るかを、高校生が真剣に考えた結果。
06年度まで同高に勤務し、当時のいきさつに詳しい
県高校教育課の田畑淳一・指導主事(44)は、
「周辺に食品加工などの関連産業が集まり、
農業高校の卒業生ほど、地元で就職する割合が高い。
高校時代から意欲を持たせて未来のリーダーを育てることは、
地域貢献につながる」と農業高校の役割を説明。
米価の低迷で、稲作農家を取り巻く環境は厳しい。
124年の長い伝統を受け継いできた宮城県農業高校でさえ、
農業をなりわいにする卒業生は少なくなっている。
稲の生育診断に参加した農業科3年の11人のうち、
「将来は就農したい」と考えている生徒は1人。
多くは、「農業は嫌いじゃないけれど、仕事にはしたくない」
というのが本音。
それでも佐藤教諭は、教え子たちに、こう説いている。
「人の口に入る食べ物を生み出す農業に携わった君たちは、
知識もあり、食の安全への目利きが出来るんだ」
枠にはまらない農業が、地域を救うのかもしれない。
◆目指せスペシャリスト
専門高校が計画した意欲的な研究に対し、
文部科学省が助成する制度。期間は3年間。
農業、水産、商業、工業などの専門高校の活性化と、
産業基盤の強化が狙い。
2003年度から始まり、これまでに77校が指定。
このうち農業高校は21校。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090924-OYT8T00251.htm
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