2009年10月3日土曜日

環境が問う 新政権の本気とやる気

(日経 2009-09-14)

民主党の鳩山由紀夫代表が講演で、
国内の温暖化ガス削減目標について、
「あらゆる政策を総動員して、2020年までに
1990年比25%削減の実現をめざす」と、
従来の政府目標である8%削減から大幅に踏み込むことを明言。

“新首相”が公約を果たす決意を示すのは当然。
大手メーカーの環境部長も、選挙中から
「鳩山さんは9月22日の国連気候変動サミットで、
『Japan has changed(日本は変わった)』と言いたい」

注目しているのは、どんな環境政策や削減技術を
積み上げるのかといった具体策とその実現可能性。

マニフェストに掲げた「キャップ・アンド・トレード(C&T)方式に
よる実効ある国内排出量取引市場の創設」をめぐって、
産業界でこんなブラック・ジョークが。
「A社とB社が、ともにエコカーを発売した。
性能が良いA社製品の売れ行きが好調だが、
B社の社長はなぜか涼しい顔。
『A社は売れ過ぎで、排出枠が足りなくなったそうだ。
うちの余った排出枠を売ってくれと連絡があったよ。
負けるが勝ちさ』」

C&Tは、政府が企業にあらかじめCO2の排出枠(キャップ)を
割り当て、過不足分を企業間で取引(トレード)する仕組み。
最小のコストで削減を進める手法。

ジョークの例は極端にしても、「優れた製品の開発は、
必ずしも経営的にプラスではない」という矛盾は、
「キャップの公平で、合理的な割り当ては難しい」
(岩間芳仁・日本経団連環境本部長)という懸念。

25%削減のうち、海外からの排出枠調達をどの程度見込むかも、
国民や企業の実質的な削減負担(いわゆる「真水の削減」)の
水準を決めるうえで焦点に。
25%に相当する排出量は、約3億1500万トン。
仮に、5%分を排出枠で賄うとしたら、必要量は約6300万トンに。

考えなければならないのが、米国の出方。
「20年までに05年比20%削減」などを柱とする
米国の地球温暖化対策法案(ワックスマン・マーキー法案)では、
海外での排出削減による「オフセット(相殺)」を
年間10億トン認めている。

京都議定書で認められているクリーン開発メカニズム(CDM)や
共同実施(JI)に基づく排出枠の総供給量は、
08~12年の累計で14~19億トン(世銀予測)に過ぎない。
米国が想定するオフセットは、CDMやJIに限らないようだが、
ケタ外れの排出枠需要が生まれる可能性が潜む。

米国抜きの「京都」の枠組みでは、比較的容易だった排出枠の
海外調達が、「ポスト京都」では難しくなり、需給逼迫で調達価格が
高騰するというシナリオも産業界では浮上。

マニフェストには、「温暖化ガス抑制の国際的枠組みに、
米国・中国・インドなど主要排出国の参加を促し、
主導的な環境外交を展開する」という項目も。

鳩山代表は、7日の講演でも「すべての主要国による公平かつ
実効性のある枠組みの構築をめざす」

主要排出国の参加と公平な負担は鉄鋼、電力ばかりでなく、
自動車、電機など国際競争力の低下を懸念する多くの業界が、
「ポスト京都」の国際交渉の前提として
政府に求めている最大の条件。
ある鉄鋼大手幹部は、「麻生首相よりはっきり言っている」と評価。

外相には、党の地球温暖化対策本部長も務める岡田克也氏。
政権公約説明会で、鳩山講演と同様に主要国参加の必要性を指摘、
25%削減案の積算根拠を求める日本経団連側に、
「科学が出した結論、50年に地球全体でCO2を半減することが
前提で、できることだけをやればよいとの考え方はとらない」
と原則論を貫いた。

世界のCO2排出量のうち、米国と中国がそれぞれ2割(06年)。
「科学の結論」の実現は、両国の大幅削減なくしてはあり得ない。
米国では、ワックスマン・マーキー法案の上院通過の難航が予想、
中国など新興国は、先進国の削減率として
民主党案を大幅に上回る「40%」を突きつけている。

12月、コペンハーゲンで開かれる国連気候変動枠組み条約
締約国会議(COP15)まで残り3カ月。
米中を交渉のテーブルに着かせ、主要排出国が
公平な削減負担を分かち合う決着を導き出す役回りを、
日本が果たせるのか?
懐疑論も根強い産業界をうならせるには、「論より証拠」。
新政権の手腕が試される。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/tanso/tan090911.html

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