2009年10月23日金曜日

食と科学-生命の対話 パネルディスカッション

(2009年10月10日 毎日新聞社)

「食と科学--生命の対話」をテーマに、
英国の初代食品基準庁長官ジョン・クレブス上院議員
(オックスフォード大学ジーザスカレッジ校長)を招いた
「クレブス卿特別講演会とパネルディスカッション」が開かれた。

◇小島--メディアは危険情報を流しやすい
◇唐木--消費者の不安と実際行動に違い
◇姫田--情報提供は事実を分かりやすく
◇小泉--情報不足が消費者不安の背景に
◇阿南--食の世界では知恵の伝承が大切
◇木村--企業も安全情報の長期的構想を

西澤真理子氏:病原性大腸菌O157による食中毒があった。
食中毒や各種事故のリスクは高いのに、
リスクのきわめて低い残留農薬や遺伝子組み換え作物などが
不安に思われているのは、なぜか?

ジョン・クレブス氏:人は、未知でなじみがなく、
自力で制御できないものに、大きなリスクを感じる。
原子力発電所の近くに住むリスクに比べ、車の込みあう道路を
自転車で走るリスクの方が高いのに、人々の意識は逆。

唐木英明氏:消費者の不安感と実際の行動は異なることを
知ることも重要。
消費者の約8割は、アンケートで「添加物に不安」と答えるが、
実際に買い物をする時に不安を感じない。
アンケート結果に、企業や行政がどこまで対応すればよいのか。

クレブス氏:メディアが、子どもの多動と添加物が関係あるかのごとく
報道するのも、不安感を高めている一要因。
政府が、「絶対に安全です」と言うのは大きな誤解の元で、
ゼロリスクを絶対に言ってはいけない。

西澤氏:情報提供のあり方だ。

姫田尚氏:行政側は、「科学的に安全だから受け入れるべき」
といった押し付け的要素があった。
BSE問題でも、国が「全頭検査をしているから絶対に安全」と
言ってしまうなど、反省すべき点も。
記者との関係を緊密に保ち、事実を分かりやすく伝えることが大事。

小泉直子氏:消費者の不安感の背景には、情報不足も大きい。
毎年、約100万人に1人がクロイツフェルト・ヤコブ病にかかる。
この病気は未知で、個人の力では制御できないが、
不安感は持たれていない。
BSE感染した牛肉を食べ、変異型ヤコブ病を発症するリスクは
ほとんどゼロなのに、不安感が大きい。
確率の考え方をもっと知ることが大切。

阿南久氏:未知なものに消費者が不安を抱くのは当然だが、
食べ過ぎなど真のリスクや、添加物が食中毒を防ぐなどの
メリットを学ぶことも大切。
食の世界では、知恵の伝承も大事。

小島正美氏:メディアの世界では、安全な情報より、
危険な情報を流しやすい。そのへんの自覚も大事だ。

唐木氏:安全な情報は、聞き逃しても損はないので、
消費者は危険な情報に注目しやすい。
情報に単純に反応しないよう、メディアはもっとメリットを伝えてほしい。

木村毅氏:企業側の対応も重要。
企業の品質保証部門で、安全だと分かっている添加物を使っても、
営業サイドは無添加商品として売っていこうとする問題も。
食品企業が、安全情報に関し、長期的なビジョンを示す必要。

◆特別講演
科学的根拠を基本に--英国初代食品基準庁長官、ジョン・クレブス氏


世界的には大きな問題が二つ。
先進国での食べ過ぎによる肥満、途上国での食料不足と飢餓。

過去15年間、英国では子供たちも含め肥満者は増えている。
何が健康リスクかと言えば、がん、脳血管疾患、糖尿病、
食べ物の誤飲などによる窒息死、子供の事故など。
残留農薬や食品添加物、BSEではない。
英国では、BSEが大問題になったが、すでに脅威ではない。

政府が目指すべきことは、リスクをゼロにすることではなく、
分別ある消費者が受容できるレベルまでリスクを下げること。

英国の食品基準庁は、「オーガニック農産物は通常の農産物に比べ、
安全性と健康への効果の点で差がない」とする報告書。
有機農産物の栽培は、環境にはよい面をもっているが、
健康への効果で優れているわけではなく、
食料問題を解決する手段にはならない。

今後も、食料需要やエネルギー消費の増加が予想。
水や肥料が少なくても育つ遺伝子組み換え作物などにも期待。
科学的な根拠を基本に、食や健康を考えてゆくことが大事。
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◇パネリスト
小泉直子 食品安全委員会委員長
唐木英明 東京大学名誉教授
姫田尚  農林水産省消費安全局総務課長
阿南久  全国消費者団体連絡会事務局長
木村毅  味の素品質保証部長
小島正美 毎日新聞生活報道部編集委員
コーディネーター 西澤真理子・リテラジャパン代表

http://www.m3.com/news/GENERAL/2009/10/13/108990/

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