2009年10月18日日曜日

夢のエンジンが示す環境技術の底力

(日経 2009-10-05)

石油や石炭の代替エネルギーといえば、
太陽光や風力がまず思い浮かぶ。
将来性のありそうなエネルギー源は、ほかにもある。
工場や車両などからの「排熱」もそのひとつ。

石油や天然ガスなどの1次エネルギーは、約10%が排熱として
そのまま捨てられている。
そこに着目したのが、パナソニックの社内ベンチャー、
eスターの赤沢輝行社長。

工場の排熱からエネルギーを取り出して発電するエンジンと
一連のシステムの事業化をめざし、2005年、eスターを設立。
技術をほぼ確立し、今年6月にパナソニックの
ホームアプライアンス社・奈良工場で、
開発した新しいエンジンの実証実験を始めた。

赤沢氏が開発したエンジンは、200年近く前に原理が
考案されながら世の中に普及してこなかった、
スターリングエンジン

スターリングエンジンは1816年、英国の牧師の
スターリング氏が考えだした。
シリンダーの外部から熱を加え、中の気体を膨張させ、
加熱と冷却を繰り返してピストンを動かす。
理論上、熱効率が高く、多様な熱源が使えるため、
理想的な外燃機関とされた。

「石油と自動車の時代」が到来し、一気にガソリンエンジンが普及。
スターリングエンジンは、世の中からほとんど忘れられた。
熱源の温度差によって発電するので、
セ氏1000度以上の非常に高い温度の燃焼ガスを使うエンジンは
これまでも作ることができたが、工場排熱に多い
セ氏300~500度の熱で発電するエンジンは実用化されないまま。

産業界で出されている排熱は、熱量にして全体の97%が、
セ氏500度以下。
セ氏300度や400度の排熱を、いかに有効活用するかが課題。
それを克服したのが、赤沢社長。

排熱のエネルギーを回転運動に変える際、
エネルギーの損失をできるだけ抑えられるよう、
摩擦や摩耗が少ない構造を考えだした。
どんな機構か簡単にいえば、部品の数を少なくした
「シンプルなメカニズム」(赤沢社長)。

「スコッチヨーク」と呼ばれる機構を独自に改良
摩擦や摩耗を抑えるには、潤滑油などのオイルを使う手が
ありそうだが、オイルが炭化し、機構内部の細かなすき間を
埋めてしまう恐れが。
それを防ぐには、設計を工夫する必要があり、
結局、部品点数が増えてしまってコストも高くなる。

赤沢社長は、オイルを使わずに済む方式を開発し、
「シンプル」で小型化も進めたメカニズムを実現。

赤沢氏は起業前、パナソニックの空調研究所で、
潤滑油を使わないエアコン用コンプレッサー(圧縮機)の
開発に携わっていた。
豊富な蓄積がある技術を、エンジンの「オイルレス」化に生かした。

「排熱回収スターリングエンジン」は、工業炉、ボイラー、
原動機などから出るセ氏300〜650度の排熱を利用して
発電ができる。

発電効率は、セ氏450度の排熱を使った場合で15%。
従来のスターリングエンジンに比べ、部品点数は3割ほど
減らせたと推定、コスト面でも実用レベルに到達。

パナソニックのホームアプライアンス社・奈良工場での
実証実験では、排気ガスの煙道に開発したエンジンを装着し、
500ワットの発電。

今年度中、約5~10キロワットの発電ができる
エンジンを開発する計画。
排熱を再利用して電気をおこし、温暖化ガス排出の削減に
貢献する新設備として、2011年度の商品化をめざす。

鳩山由紀夫首相は、国連の気候変動首脳会合で、
温暖化ガスを2020年までに、1990年を基準とした場合、
25%削減すると表明、国際公約とした。
欧州などから評価された高い目標に、
日本企業の間では反対意見が多い。

長らく夢物語とされてきたスターリングエンジンが、
実用化に向かい始めた動きも。
手の届きそうにない「25%削減」も、日本の環境技術を
結集すれば、けっこう“いける”ような気がする。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/tanso/tan091001.html

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