(毎日 8月6日)
スポーツと政治の距離が近年、急速に縮まってきた。
スポーツ振興を、国家戦略と位置づけるスポーツ基本法案策定の
動きが与野党で活発化しているのも、一つの表れ。
過去最多の37個のメダルを獲得した04年アテネ五輪直後、
世論の盛り上がりを背景に、当時の小泉純一郎首相は、
積極的にスポーツ政策に乗り出した。
08年北京五輪後の完成を予定していた
ナショナルトレーニングセンターの整備前倒しを宣言。
05年3月、自民党文教族の“ドン”と呼ばれた森喜朗元首相の
日本体育協会会長就任が決定。
景気低迷が長引く中、スポーツ界を引っ張っていける
財界人は見当たらず、大物政治家の登場となった。
この時期を境に、政治の関与は強まっていく。
東京都は、森氏ら自民党議員の支援を背景に、
16年以降の夏季五輪招致に乗り出すと発表。
小泉政権の後を継いだ安倍晋三氏は、
著書「美しい国へ」(文春新書)の中で、
「スポーツには、健全な愛国心を引きだす力がある」と。
そんな国家主義的な思想と、企業スポーツの衰退で
政界へ支援を求める競技団体側の思惑が一致し、
共同歩調が取られていった。
◆積極姿勢の自民党
07年8月、当時の副文部科学相だった自民党の
遠藤利明衆院議員が、私的懇談会でまとめた報告書
「スポーツ立国ニッポン」が、国策化を促す呼び水に。
「国際競技大会において、日本人選手が活躍することは、
国際社会における先進国としての我が国の国力を明示し、
真の先進国『日本』のプレゼンスとアイデンティティーを高めることになる」
スポーツ振興は、国力を誇示する一つの手段になる。
その後、遠藤氏は森氏にスポーツ政策の担当部門発足を持ちかけ、
クレー射撃で五輪出場経験があり、後に首相となる麻生太郎氏を
会長に据え、党内にスポーツ立国調査会が誕生。
今年2月、同調査会の会長に就任した遠藤氏は、
「スポーツ界では、ずっと(不参加だった)モスクワ五輪のトラウマがあり、
政治とは距離を置いていた。
(不振だった06年の)トリノ五輪をきっかけに、
積極的に国が関与すべきだとの意識が高まった」
◆競争力低下が背景
国策化が進む背景については、こんな見方が。
日本体育・スポーツ政策学会理事を務める東京成徳大の
出雲輝彦教授は、「国力の低下」に着目。
「少子化などの影響で、国力が衰退すれば、
将来日本が経済的な優位性や国際的な地位を確保できるとは限らない。
向上可能な分野で国際競争力を高めるため、
スポーツの国際競技力向上を目指す考え方がある」と指摘。
政治家を介し、スポーツの存在感は確かに増した。
ラグビー経験者の森氏は、日本ラグビー協会会長として、
19年ラグビー・ワールドカップ招致の実現に大きな影響力を発揮。
政界との適正な距離を保たなければ、
スポーツ界の自主独立はゆらぐ。
出雲教授は、「競技スポーツは、国家間の国際競争力を競うための
道具として存在しているのではない」とクギを刺す。
昨年の衆院選で、政権政党は民主党に代わり、
体協やJOCへの補助金は削減。
スポーツが持つ価値観をどう定義づけるか?
政策のあり方も揺れている。
http://mainichi.jp/enta/sports/general/news/20100806ddm035050046000c.html
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