2010年12月7日火曜日

スポーツ政策を考える:高峰修・明治大准教授(スポーツ社会学)

(毎日 11月27日)

国家戦略として、スポーツの振興に取り組むのは世界的な流れで、
日本も対応せざるを得ない。
このままでは取り残されてしまう、という危機感が行政にあり、
経済に代わる成長のツールとして、スポーツが注目されている。

日本は、スポーツを欧米から文化として輸入。
ボールを投げたり、けったりという行動レベルではまねできても、
背景にある理念、哲学などが理解され、
国民の間に根付いているとは言い難い。

今までの文部科学省の政策やスポーツ立国戦略を見ると、
トップアスリートが世界的レベルの大会で活躍することに、
ポイントが置かれている。
それも哲学だろうが、倫理的な面に配慮せず、
競技力の向上ばかりを追い求めることに疑問を持っている。

日本スポーツとジェンダー学会のメンバーと、
「スポーツ指導者と競技者のセクシャル・ハラスメントに関する
認識と経験の現状と特徴」と題する合同調査を実施。

都道府県体協に登録している指導者と国体レベルの選手を対象に、
暴力を含む反倫理的行為とセクハラになりうる行為についての
意識や体験を尋ねたところ、実際に体罰や暴力は行われていて、
そうした行為を受けた選手のうち、2割以上が容認する一方で、
「足でける」などの行為を受けた選手の半数以上は
受け入れられないと答えていた。

スポーツ指導の現場では、暴力行為が許されるという認識が
指導者や選手だけでなく、保護者たちにも共有。
愛情が伴えば「愛のムチ」であり、国のトップレベルや国際レベルに
到達するためには必要である、というのが肯定側の主張。

全員ではないが、そこを通過した選手たちがオリンピックや
世界選手権に出場して活躍。
競技団体は問題解決に消極的で、触れようとしない。
そういった現状にメスを入れないままのスポーツ振興でいいのか?

日本の多くの競技団体は、人員的にも財政的にも余裕がなく、
いきなり倫理問題について考えて取り組むように、と要求するのは
現実的ではない。

豪州やカナダ、フランスなどのスポーツ政策と倫理や
人権に対する取り組みを調査したうえで、
競技団体がすぐに活用できるような形で情報を収集し、
まとめて提供したいと考えている。

すでに豪州は、スポーツ行政の中心的役割を担っている
スポーツ委員会(ASC)がホームページ上で、
規約文書のひな型などを公開。

倫理の問題や人権の問題への目配りを欠いたまま、
立国戦略が進んでいくことを危ぶんでいる。
それは一部の人たちの利益になるかもしれないが、
必ずしも国民全体の幸せにつながるとは思えない。
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◇たかみね・おさむ

1968年生まれ。中京大大学院修了。
編著に「スポーツ教養入門」(岩波書店)。
日本スポーツとジェンダー学会事務局長。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/general/archive/news/2010/11/27/20101127dde035070057000c.html

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