2011年6月12日日曜日

「自粛よりビジネス、信じて前へ」ジャパネットたかた・高田明社長

(日経 2011/6/4)

「東日本大震災は、消費者を変えた」――。
日経MJの創刊40周年記念シンポジウムで、
ジャパネットたかたの高田明社長(62)。

自粛ムードも漂うが、「復興のためには、何よりも消費が大事だ」と強調。
ヒット商品を作り出すノウハウを示しながら、
「消費は、自分で『作る』という意識が大切だ」と語りかけた。
おなじみのテレビ通販では、「いつも30回ほど撮り直す」といった裏話も。

【基調講演】

東日本大震災で、多くの人の生活が変わった。

ジャパネットは4、5年前からエコ(環境)が大事だと言い続け、
エコに対応した商品しか売れないとのメッセージを出してきた。
今は、節電意識の高まりで、扇風機が前年の10倍売れている。
消費という軸でみると、震災は消費者を変えた。

企業は、エコに対応した商品を求めていくことが大切だが、
既存の商品もしっかりとらえることが必要。
両方を大事にしながら、商品戦略やマーケティングに取り組んでいく。

震災後、元気の出る話をあまり聞かない。
日本経済はどうなっていくか、という大きな不安があるため。
地震、津波、原発、風評被害の4つの問題が発生、
いま日本を覆っている問題は経済活動の自粛で、
この考え方には反対だ。

米国は、(米同時テロが起きた)「9.11」の2日後、
国が「自粛はいけない」、「やるべきことはやろう」と
メッセージを出して力強く復活。

◆10分で全商品売り切れ

当社も、10日間はテレビショッピングの番組を自粛するつもり。
だが、本当に被災地のことを考えていくのであれば、
企業としての仕事を頑張り通すしかないのではないかと、
3月16日、番組を一部再開しようと社内で提案。

単に放送を再開するのではなく、テレビ1500台とランタン1000個を用意し、
それらの売り上げのすべてを義援金にしようと提案。
午前9時半に番組がスタート、冒頭ですべての売り上げを
全額義援金として被災地に送る旨を視聴者に伝えた。

すると、商品の紹介が終わらないうちに、
10分で全部の商品が売り切れた。
コールセンターには、次々に電話が入ってきた。
「本当にわたしたちの気持ちが被災地に届くのか」と。

その時、私たちはビジネスを進めながら支援に取り組まないと、
本当の支援にはならないと確信。
自分たちが信じること、企業が信じることを突き進むべきだ。

テレビ通販のスタジオがある佐世保市からほぼ毎日、
日本全国に番組を発信、マーケティングが日々変化していることを感じる。
今の時代は、ITの進化で商品のサイクルが早過ぎ、世の中の変化も早い。
今日売れた商品が、明日も売れる保証はまったくないのが今の世の中。

◆20年前から情熱変わらず

番組づくりにかける情熱と仕事への取り組み方の姿勢は、
20年前のラジオ通販をやっていた時と、まったく変わらない。

この商品を何人に買ってもらえるか、という一念。
100個しか売れなかったら、100人にしか伝わらなかったということ。

伝えるために、何が足らなかったのか?
その課題を書き出していく。

まずは、自分の説明の仕方に問題がある。
自分の語りが足りなかったのなら、どうして足らないのかを考える。
本を読み、商品の知識を身につける。
商品に触ってみる。
どうやってうまく伝えるかを練り直す。
番組には台本がない。
いつも30回ほど撮り直す。

たった60秒の中に、人生やビジネスが凝縮して詰まっていると
いっても過言ではない。
商品の展示も、重要なポイント。

スタジオに商品をどう並べるかで、番組の印象が全然違う。

若いスタッフには、「並べ方が悪い」、「商品が主役になっていない」と指摘。
商品のチェック。
この商品は、本当にお客の立場に立った商品か?
値段が、私たちが提供している商品に見合っているか?
いろいろな課題が10個、20個と出てくる。
それらを1つずつつぶしていくことが、60秒のショッピング番組。
企業の組織体の問題であり、社員教育や企業の理念にもつながる。

◆伝えたいからハイテンションに

番組で商品を紹介しているとき、私のテンションが高いと
よく言われるが、あれは商品の良さを伝えたいと思って、
自然と言葉が出ている。

カメラの先の視聴者を見ているので、その人に伝えたいと思ったら、
テンションがどんどん上がっていく。

宣伝の仕方は、経験からいうと、半端な投資は意味がない。
やるときは大胆にやった方がいい。
チラシは1回に4000万部を配り、5億~6億円。
テレビコマーシャルにも、億円単位の費用が必要。

10億円しか売れなかった商品が、宣伝効果で30億円売れることも。
宣伝投資は、お客がサプライズを待っており、
それに応えたいという経営判断。

◎トークセッション

――先行きの消費をどうみるか?

「当社は、エコ応援プロジェクトを4~5年前から家電などでやってきた。
当時から、環境を考えない商品にはお客が振り向かない。
今回の震災で、まさにそういう状況に。
エアコンにしても15、16年前は6万~7万円の機種がよく売れた。
今は10万円を超えても、エコを考えた商品には多くのお客が集まる。
これから消費者が関心を示すのは、節電やエコ関連の商品

――震災で消費は根本から変わるのか?

経済を左右するのは、人々の心理学。
消費者の心がどう動くのか?
今は自粛するのではなく、皆で日本を元気にしようと、
立ち上がっていかないとだめ。
復興のためには、何よりも消費が大事で、わたしたちにできるのは
前に進んでいくための消費を生み出すこと

「市場は、社会状況で変わっていく。
待ちの姿勢ではなく、消費は自分で『作る』という意識が大切。
8年前に販売したボイスレコーダーは、数万台を売った商品。
当初、会議で使う目的で販売、小さい子どもがいる主婦や高齢者を
どうターゲットにするか?
『お母さんの声を録音し、子どもに聞かせてください』、
『お年寄りは、用事を書くメモ代わりに使って下さい』
こう説明して、年代ごとに使い方を具体的に提案」

――消費者心理は冷え込んでいる。気持ちをどうかき立てるか?

お客にものを売るときの伝え方が大切。
テレビ通販の番組を見た人が、『ものを売っている』と感じると、
敬遠して買ってくれない。
視聴者から、『番組を見ていて楽しい』、『子どもが番組を見てよく踊る』。
こうした感想が寄せられるのが、一番うれしい。
わたしの説明によって、商品を使った楽しさが伝わっていると分かる。
企業は、単に商品を世の中に出すのではなく、
どういう出し方で、消費者とどうつながっていくのかを考える必要

――企業にできる復興支援とは?

支援の方法は、いろいろある。
当社では、復興支援の企画をいくつか考えている。
番組で東北の商品を紹介することや、観光で応援することも計画。
いま社内で議論しているのが、1万人を集めて東北ツアーをやり、
義援金を集めたり、現地で買い物したりする。
テレビ局と協力した復興支援の企画も考えている」

――通販だけでなく、リアルの店舗を展開するなど、
新たな事業展開をどう考えているか?

企業は、身の丈にあった商売をしなければならない。
家電製品を売っているけど、化粧品も売れるのではないかと思ってしまう。
何でもできると勘違いすると危ない。
いずれ海外に進出することがあるかもしれないが、
今の仕事は課題がたくさんあり、日本でやりたいことも多い。
我々と同じ思いを持ったメーカーがあれば、一緒に商品開発などもしたい」

http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819499E2E0E2E3998DE2E0E2E4E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2?n_cid=TW001

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