2011年6月13日月曜日

経済成長のための医療か 中川俊男・日本医師会副会長

(2011年5月31日 共同通信社)

医療ツーリズムは、タイなどの東南アジア諸国でうまくいっているから、
日本の医療レベルならもっといけるのでは、という発想。

公的医療費をもう増やせないから、
医療機関に外国の富裕層を呼んでお金もうけをしなさいというが、
それが結果的に、日本の経済成長に結び付くという考え方は安易。

2010年6月、閣議決定した新成長戦略で、医療や医療周辺産業を
日本経済の成長けん引役に位置づけたことに、もともと問題がある。

医療や介護に雇用創出効果はあるが、
それ以上の成長けん引産業とするには、利益を出さなければならない。

がんの検査をするため、陽電子放射断層撮影装置(PET)などがある
病院に中国人観光客が来て、診療報酬の点数の2、3倍の
料金を取ったとする。

病院側が経営だけを考えれば、金持ちを優先し、
公的医療保険を使う日本人は後回しになって、
予約が取りにくくなる恐れ。

日本人でも、「自費で払うから、検査だけでも先にやってほしい」と
申し出る人が現れるだろう。
(保険診療と自費診療を併用する)混合診療について、
「どうして全面解禁しないのか」という不満が高まってくる。

結果的に、患者の支払い能力で格差が出る医療が
つくられてしまうのが目に見えている。

株式会社が利益や配当のため、医療に参入する道を開くことにも。
地方の自治体や病院で、医療ツーリズムに期待する声はある。
地方財政が苦しく、突破口を見つけようという必死の努力の中で出た意見。

実際にどうなるかを考えると、うまくいかないことに気づく。
「がんかもしれない」と思いながら、検診のためとはいえ、
海外旅行をするだろうか?

中国にも、高度医療を提供できる病院はつくられている。
留学している優秀な医師もたくさんいる。

地方の医療の窮状は、小泉政権以降の自民党政権が診療報酬を下げ、
医療費を抑制し続けた結果。

今は、日本の医療提供体制を立て直すことに
全力投球しなければならない時期。
日本の公的医療保険制度を絶対に守らなければいけない。

一度でも壊れれば、それがアリの一穴になって、
全体の崩壊につながるのだから。

◆なかがわ・としお

51年北海道旭川市生まれ。札幌医科大医学部の臨床教授などを経て、
10年から日本医師会副会長。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/5/31/137278/

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