2011年6月15日水曜日

健康に悪影響、効果は疑問 検証のない省エネ神話 本間研一・北海道大特任教授  「サマータイム」

(2011年6月7日 共同通信社)

福島第1原発事故などに伴う電力不足から、
政府は、この夏15%の節電を国民に呼び掛けている。
その方策として注目を浴びているのが、
企業などによる出勤時間の繰り上げ。
マスコミは、これをサマータイムと呼んでいるが、
正確には企業別フレックスタイムであり、
時計の針を1時間進める本来のサマータイム制とは異なる。

2008年、国会でサマータイム導入の動きがあった時、
私が委員長を務める日本睡眠学会
「サマータイム制度に関する特別委員会」は、睡眠時間の短縮に懸念。
既に睡眠時間が短く、生活パターンの夜型化が進行している
日本での導入は、生体リズムを乱し、不眠など健康に
悪影響を与える可能性があるとの理由で、反対を表明。

今回のサマータイムは企業別であり、それによって生じる事態の
責任はすべて企業にあるので、第三者がとやかく言うことではない。
同じ問題が内在していることは、指摘しておきたい。

出勤を1時間早めるためには、起床を1時間早くするか、
起床時間は変えないで出勤までを1時間短縮するかのどちらか。
夜型化が進んでいる日本では、いずれにせよ早起きは難しい。

退社が1時間早くなっても、普段通りの生活を維持し、
就眠を1時間早くしなければ夜間の睡眠時間は減少。
早く床に就いても、昼間熱せられた家屋が冷えるまで、
熟睡できないこともありうる。

一部のマスコミは、サマータイムで夕方に、
あたかも時間の余裕が出るかのような誤解を国民に与え、
買い物やレジャーによる経済効果を唱えているが、
これは全くの誤り。
「余暇」の幻想は、睡眠不足を招く原因となりかねない。

04~06年、経済活性化を目的として、札幌市を中心に
企業別フレックスタイムの実験が実施、
参加した従業員の約40%が体調不良や睡眠不足を訴えた。
労働時間の増加が26%にみられたが、減少したとの回答も19%。

睡眠不足は日中の活動に影響し、作業能率を低下させ、
業務ミスを増加させる。
特にサマータイムで、時計の針を1時間進めた直後は、
交通事故が多発する恐れ。
睡眠不足は、糖尿病などの生活習慣病、がん、うつ病の
リスクを高めるとも報告。
サマータイムには、このようなマイナス面がある。

期待されている節電効果については、限定的というよりも、
全体としてむしろ増エネになるとの調査結果が複数。
照明の節約効果は、照明器具の省エネ化で薄れる一方、
家庭における冷房需要の増加がその理由。
サマータイムによって、冷房を必要とする時間帯が
就業時間から在宅時間にシフトするため。

結局、サマータイムは、地域として節電効果が
あまり期待できないだけでなく、不眠による健康障害や
産業事故の危険性を高め、全体としてみると、
コストの増加は避けられない。

サマータイムに代わるものとして、長期の夏季休暇や、
一部の企業が既に提案している労働日のシフトが考えられる。
平日の作業を土日に振り替えることで、電力消費の分散化を
図ることができる。
多くの企業が参入し、体系的に労働日を決めれば、
それだけでかなりの節電になるだろう。

検証されることなく、数年ごとに登場してくるサマータイムの省エネ神話に、
原発安全神話と同質のものを感じるのは私だけではないはず。

◆ほんま・けんいち

46年札幌市生まれ。北海道大医学部卒。専門は睡眠生理学。
05年北海道大大学院医学研究科長、医学部長、10年から現職。
日本睡眠学会副理事長。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/6/7/137616/

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