2008年2月21日木曜日

過労になると脳下垂体細胞が次々と死滅 大阪市大実験

(朝日 2008年02月15日)

極度の過労によって、脳の中心部にある内分泌器官、
脳下垂体の細胞が次々と死滅していることを、
大阪市立大の研究チームがラットによる実験で判明。
過労は、生体の機能が落ちるだけとみられていたが、
実際は生命維持の中心器官の一つが破壊されていることを立証。

06年度の脳・心疾患で死亡した「過労死者」は147人。
過労を早く見つける「過労マーカー」の開発に役立つと期待。

大阪市立大の木山博資教授(解剖学)らは、
ラットの飼育箱の底に1センチ強の深さに水を張り、5日間観察。
ラットは、体が水にぬれるのをとても嫌う性質があり、
立ったまま数分うとうとする程度しか眠れなくなる。
徹夜で働く人間と、ほぼ同じ状態。

このような状態のラットの脳下垂体を調べると、
5日目に細胞が死滅し始め、下垂体の中葉と呼ばれる部分がスポンジ状に。
下垂体中葉には、脳の神経核A14という部分から
神経伝達物質ドーパミンが供給。
疲労がつのるにつれて、A14のドーパミン生産能力が減り、
下垂体の死滅細胞が増えていた。

実験後、飼育箱から水を抜くと、ラットはすぐに睡眠をとり、
半日後には活動を再開。
しかし、下垂体が元の状態に戻るには数日間かかった。
早めの休養が重要であることを示している。

http://www.asahi.com/science/update/0215/TKY200802150139.html

笑い測定機開発、大爆笑4秒で20「アッハ」 関西大

(朝日 2008年02月16日)

笑いの度合いを数値化し、アッハ(aH)という単位で表す
「笑い測定機」を関西大の木村洋二教授(コミュニケーション論)と
大学院修士課程2年の降旗真司さんの研究チームが開発。
笑いは、健康にいいといわれるが、
それを科学的に検証するために役立てたい。

ほお、横隔膜、腹筋の周辺の皮膚にセンサーを張り付け、
1秒に3千回の頻度で、筋肉を動かすときに発生する
微弱な電気(筋電位)を測定。
これをパソコンに取り込み、独自開発の専用ソフトで解析し、
笑いの程度を判定。
心から笑っていない人を見破ることもできるという。

木村教授によると、大爆笑は1秒あたり5アッハほどで、
これが4秒続くと20アッハになる。

07年に測定機の原理に関する特許を出願。
開発費は約600万円。

http://www.asahi.com/science/update/0215/OSK200802150063.html

2008年2月20日水曜日

スポーツ中の突然死:前日、十分睡眠を 指導者や教員へ知識、技術普及を

(毎日 2月15日)

健康維持にスポーツは欠かせないが、スポーツ中の突然死は後を絶たない。
防止するには、どうしたらよいのだろうか?

東京都済生会中央病院の三田村秀雄副院長(循環器)によると、
スポーツ中の突然死の原因は年齢によって大きく異なる。
若年層の場合は、心臓に生まれつき異常や疾患があったり、
乳幼児期に川崎病にかかったケースなどが多いが、
中高年の場合、多くが心筋梗塞。

「スポーツでの突然死のリスクは、安静時の17倍というデータも」。
心臓突然死は予測できないが、心筋梗塞の4大危険因子と言われる
高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙は危険度を高める。

予防には、普段から定期的にトレーニングして急に激しいスポーツをしないこと、
スポーツをする前日は十分な睡眠を取ること。
風邪もあなどってはいけない。
風邪が原因で心筋炎を起こすことがあるから。

スポーツ前やスポーツ中に胸痛、血の気が引くような感じのめまい、
脈の乱れを感じるような動悸があったら、すぐ中止する。
汗をかいて脱水状態になると、血液が固まりやすくなるので、
こまめな水分補給を心がける。

スポーツの前後にウオーミングアップとクールダウンを十分することや、
普段の健康チェックも重要。
心電図は安静時だけではなく、スポーツ時の負荷をかけた状態でも取るとよい。

もし倒れた場合は、いかに早く対処できるかが生死を分ける。
「3分以内に対処できれば、7割が助かる。
人が倒れたら、心停止かもしれないという意識を持つこと。
AED(自動体外式除細動器)の配備が進んでいるが、
目につくところに置き、何かあった時のシミュレーションをしておくことが大事」。

とはいえ、周囲の人がどうしていいか分からず、
時間ばかりたってしまうこともありうる。
全米公認アスレチックトレーナーの資格を持つトレーナーらが発足させた
NPO法人、スポーツセーフティージャパン(佐保豊代表理事)は、
無料の携帯電話サイト「スポーツセーフティー」
http://www.sports-safety.net/m/ss)で、
緊急事態への対応を写真入りで解説した「緊急対応ガイド」を配信。

「人が倒れて動かない」、「痛がっている」、「息苦しそうにしている」、
「意識がもうろうとしている」、「けいれんしている」の五つの入り口から、
状況に応じた対処法が分かる仕組み。

人が倒れている場合、周りの安全を確認した上で、意識の有無を確認。
意識がない場合は、救急車を呼ぶと同時にAEDの用意も指示。
気道を確保し、口の中に異物があれば取り除き、呼吸の有無を確認。
AEDがある場合には使い方を、
ない場合には人工呼吸や心臓マッサージの手順を解説。

日本は、スポーツ事故を予防しようという意識や技術の普及が遅れている。
米国での調査では、スポーツでの事故は7~8割が予防できる。
特に、子どものスポーツにかかわる指導者や学校の先生、施設関係者、
保護者は責任として、最低限の知識を身につけてほしい」。

http://mainichi.jp/life/health/news/20080215ddm013100172000c.html

英国、五輪出場の選手にマスク配給か 競技には使わずと

(朝日 2月15日)

英国オリンピック委員会は、今夏の北京五輪に出場する同国選手に
大気汚染対策でマスクを支給することを検討している。
ただ、汚染が大会前に改善されれば実施しないと、
中国政策の汚染対策の徹底を促している。
競技中の着用はない。

委員会首脳は、マスク配給は選手を支援するための選択肢の一つと指摘。
大会では、メダル獲得を目指し、
競争相手を負かさなければならないとも語り、
事態の推移次第ではマスク着用を命じることを明らかに。
支給を検討しているマスクは、大学などが開発した特殊品。

http://www.cnn.co.jp/sports/CNN200802150034.html

柔道着の色 青と白どちらが有利?英研究チームが分析

(朝日 2008年02月17日)

青と白ではどちらが有利か――
柔道の国際大会で選手が着る柔道着について、
青色の方が勝率が高いとの説を覆し、色の違いの差はないとする結果を、
英グラスゴー大の研究チームが英王立協会の紀要に発表。

格闘技の着衣や防具の色をめぐっては、複数の別の研究チームが、
アテネ五輪(04年)などの結果から、色による勝率の差を指摘。
例えば、柔道では白色より青色の方が勝率が高いとされ、
青色と赤色に分かれて対戦するアマチュアレスリングやボクシングでは
赤色が有利とする説。

理由は不明だが、青や赤は相手に威嚇的な印象を与えるという見方や、
白はよく目立つために動きが読まれやすいといった理由。

グラスゴー大のチームは、96~05年に行われた柔道の世界選手権や
オリンピックのうち、シード選手が青色の柔道着を着る慣例があり、
勝率に偏りが生じかねない試合を除外。
決勝戦のみ、501試合を選んで分析した結果、
青の勝率は50.7%で白とほぼ同じ。

http://www.asahi.com/science/update/0217/TKY200802170164.html

2008年2月19日火曜日

健康ナビ:マラソンの後、足のつめが黒くなります。どうすればよい?

(毎日 2月15日)

高田整形外科病院の小嵐正治医師は、
「足先が靴にあたって圧迫されるのが原因」。
つめが黒くなるのは、つめの裏の「爪床」という組織の毛細血管が壊れ、
つめとの間に血がたまるため。

対策としてまず、つめが靴で圧迫を受けないよう、
足先に1センチぐらい余裕のある靴を選ぶ。
走行中にひもがゆるんだら、早めに締め直す。
特に、下り坂の場合、足が前に滑り出て足先が靴に当たるので要注意。
結ぶ部分だけ締めるのではなく、下の方から引っ張り上げることが大切。

つめが黒くなった場合、たまった血の圧力で、つめがはがれることがある。
走っている最中にはがれているのに、レース後に気付く場合が多い。
少しでもくっついていれば無理にとらず、
ばんそうこうでとめておいた方が回復が早い。
はがれなくても、強い痛みを感じることもある。
その場合、外科か整形外科で血を抜くと楽になる。
注射針などで穴を開けるだけの安全な処置。
つめが黒くなっても、痛みがなければ翌日からでも走って構わない。

ランニングなどの専門店「アスリートクラブ」の三宅秀敏さんは、
「靴の中で足が横ぶれすることが原因の場合もある」。

着地のときにかかとから入り、外側を通って親指に抜ける
「足圧中心軌跡」を描くのが理想的な走り方。
しかし、骨格や筋肉の付き方などで、親指に抜ける前に外側にぶれる
走り方になっていると、無意識のうちにつめを立て、つめが黒くなる。
自分に合った中敷きを作ると(同店では8925円~)、
足にかかる圧力が分散されて正常な走り方になり、
横ぶれを防げるという。

http://mainichi.jp/life/health/news/20080215ddm013100174000c.html

湯川秀樹博士:直筆のノーベル賞論文、ネットで公開--京都大

(毎日 2月14日)

日本で初めてノーベル賞を受賞した理論物理学者、
湯川秀樹(1907~81)の受賞論文の手書き原稿を、
京都大がインターネットで公開。

リポート用紙13枚から成る「素粒子の相互作用について1」の全文。
大阪帝国大講師時代の34年、学位を取るため書き始めた初論文で、
丁寧な筆記体の英語で書かれている。
http://www.ocw.kyoto-u.ac.jp/jp/

現役の京大教授によると、
「アイデア自体は単純。優秀な大学3年生なら理解できる」。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2008/02/14/20080214ddm012040152000c.html

2008年2月18日月曜日

スポーツ21世紀:新しい波/260 陸上・実業団選手登録/4

(毎日 2月16日)

昨夏の世界陸上選手権大阪大会に、高校生でただ一人、
日本代表として出場した絹川愛=宮城・仙台育英高3年=が、
スポーツ用品メーカーのミズノに入社。
絹川は、「仕事として(陸上を)やっていく自覚を持たなければ」。
入社内定は1月。
これほど実績がある選手の進路決定が、年明けまでずれ込むのは珍しい。

一因は、昨春、豊田自動織機入社と同時に岡山大に入学した
小林祐梨子の実業団登録問題。
仙台育英高の渡辺高夫監督が、
「絹川の進路も、最優先は大学プラス実業団だった。
可能性を探るため、推移に注目していたのだが……。
進学は北京五輪後でも、競技生活が終わってからでも遅くないと
絹川本人には話している」

今春の定年退職後も引き続き絹川を指導する渡辺監督は、
登録問題について「それぞれ言い分があり、出口はない」。
ただ、日清食品の監督を務めた経験を踏まえ、こう指摘した。
「チームを持つ意味を社内の福利厚生に求めるなど、
企業の多くは視線が内に向いている。
駅伝だけでなく、選手を日本代表に送り込むことを
ビジネスとしてとらえることができないものか。
少し変わったことをしようとする選手や指導者を排除する体質も、
変えるべき時が来ているのでは」

進路や競技に取り組む価値を、金銭(年俸や給与)や待遇など
物質的な要素で判断する傾向に拍車をかけるとして、
ビジネスという考え方を疑問視する実業団関係者は多い。
小林や絹川は、高校時代から日の丸を背負った特例で、
従来の発想にとらわれない進路選択できるのも事実。

一方、注目度が高い選手の事例だからこそ、
他選手に与える影響が大きいという側面も。
「今は、彼女が道を開く形になっている。
しかし、未成年の小林自身が矢面に立つのはねえ。
五輪でメダル取得後、選手の権利を主張して戦った有森裕子とは立場が違う。
将来にプラスになるとは思えない」。
渡辺監督は、選択肢が広がる流れを支持しながらも、
小林が置かれた状況を憂慮する。

http://mainichi.jp/enta/sports/21century/

ES細胞を使って赤血球を無限に作製 マウスで理研めど

(朝日 2008年02月06日)

万能細胞の一種、胚性幹細胞(ES細胞)を使って
赤血球を無限に作り出す方法にマウスでめどをつけたと、
理化学研究所バイオリソースセンター中村幸夫室長らが、
米科学誌プロスワンに発表。

すでに人間のES細胞でも同様の研究を始め、
別の万能細胞(iPS細胞)を使った研究も計画。
臨床応用できれば、輸血用血液の不足を補えそう。

これまでに、人の骨髄などにある血液(造血)幹細胞から
赤血球を効率よく作る手法を確立しているが、
血液幹細胞には寿命があり赤血球を無限に作らせることはできなかった。

今回は、マウスの8種類のES細胞株を使い、
栄養細胞や増殖因子とともに繰り返し培養。
その結果、1年以上増殖し続ける赤血球の前段階の細胞
(赤血球前駆細胞)の株を作ることに成功。
前駆細胞は赤血球のもとで、赤血球を無限に作れる。

薬で急性貧血にしたマウスにこの前駆細胞を移植すると、
赤血球の数やヘモグロビンの量などが増え、
体内で前駆細胞から赤血球ができたことが裏付け。
貧血症状も改善。

重症のマウスでは、前駆細胞を移植した8匹のうち7匹が生き延びたが、
移植しなかった8匹では7匹が死んだ。
万能細胞から作った細胞では、異常増殖などによるがん化が最も怖い。
一方、完全な赤血球まで分化させれば、
増殖にかかわる情報を持つ核が抜け、がん化の心配はない。

今回作った前駆細胞株では、できた赤血球の9割に核が残り、
分化は不完全だが、放射線を当てて核が残る赤血球を完全に除くことも。
血液の細胞成分で、無限作製への道が見えたのは初めて。
人で実用化できれば、輸血用赤血球の不足が解消され、
輸血血液を介した感染リスクの低減にも一役買いそう。
同じ血液型なら、他人のES細胞が使える。

中村さんは、「人の血液幹細胞から成熟した赤血球を作る手法が
すでにあることを考えると、臨床応用にかなり近づいた」。

〈中内啓光東京大教授(再生医学・幹細胞治療)の話〉

ユニークで、実用性が高い成果。
赤血球は核がなく、移植の安全性も高い。
造血系や免疫系は人間とマウスで似ており、
人間の万能細胞でもできる可能性が高いだけに、
近い将来の臨床応用が期待。

http://www.asahi.com/science/update/0206/TKY200802060040.html

2008年2月17日日曜日

路面電車見直しへ実証実験

(サイエンスポータル 2008年2月13日)

都市内交通の円滑化、CO2、NOX排出など環境負荷の軽減、
さらには超高齢社会への対応といった観点から、
路面電車の利用促進を狙った情報提供実験が、広島市で始まった。

実験は、広島駅、広島港、広電宮島口などを結ぶ広島電鉄の一部電停で実施。
大型液晶モニタによる情報提供装置を設置し、到着する電車、
次に到着する電車の行き先、到着までの予想時間のほか、
身障者向きの床が低い車種かどうかといった情報を表示。
一部の電停では、混雑度も表示し、さらに電車とバスの乗り継ぎ駅では、
接続する電車の接近情報をバスに提供し、バスの運行調整によって
乗り継ぎを円滑にする試みも実施。
実験は29日まで行われ、路面電車の利便性や課題を検証したい、
と実験を実施する国土交通省は言っている。

国土交通省 http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha08/04/040207_.html

http://www.scienceportal.jp/news/daily/0802/0802131.html

「人力発電」歩くだけで携帯10台分 平均出力5ワット

(朝日 2008年02月12日)

走ったり歩いたりする際、ひざにかかる力の一部を吸収して
電気に変える人力発電装置を、カナダと米国の研究チームが開発。
平均出力は5ワットに達し、携帯電話なら約10台を
一度に動かすことができるという。
発電設備のない場所で電力供給するのに役立つかもしれない。
人がうまく歩けるのは、踏み込んだときに余った力を
太ももの裏側の筋肉などで吸収し、動きをコントロールしている。

研究チームは、足を振り出す際にこの余分な力を効率よく吸収し、
発電機を回して運動エネルギーを電気に変える装置を開発。
装置を足に付けた6人に、ランニングマシンの上で歩いてもらったところ、
体にほとんど負担を感じることなく発電することに成功。
そのうち1人は、走ることで最大出力54ワットを得ることができた。

これまでに靴に取り付ける人力発電装置などが開発されてはいるが、
出力は0.8ワットが限度。
研究チームは、へき地でのコンピューター利用や
携帯用医療機器の電源などに役立つとみている。

http://www.asahi.com/science/update/0207/TKY200802070397.html

2008年2月16日土曜日

スポーツ21世紀:新しい波/259 陸上・実業団選手登録/3

(毎日 2月9日)

実業団陸上界では、選手の所属形態の多様化が進む。
仕事をしながら競技を行う形を保つ会社もあるが、
仕事はせず競技に専念するプロ的な形態も増えた。
企業によって、チームのあり方や考え方もさまざま。

男子でアテネ五輪マラソン6位の諏訪利成を擁する日清食品は、
年俸制の契約が基本。
希望者は会社の勤務を経験できるが、大半の選手は陸上に専念。
白水昭興監督は、「会社も勝つことを求めている。
競技に集中できる環境を整えるのは当然」。
競技を続けながら正社員になる制度もあるが、過去に適用者はない。
「将来は、教員や家業などを望む選手も多い」と、選手の意思を尊重。

女子で浅利純子ら2人のマラソン五輪代表を出したダイハツは、
88年に「社員に勇気と夢を与えよう」と創部。
選手は人事、総務などの部署に所属し、
試合や合宿の時以外は午前中に約2時間勤務。
宮脇義広・陸上部事務局長は、「社員としても一人前に育ってほしい。
仕事でも頑張れば、職場からも応援される」と狙いを説明。
引退後も、会社に残って働く選手は多い。

02年に全日本実業団対抗女子駅伝を制した第一生命は、
午前中に本社で勤務する正社員と、競技に専念する契約社員の両方。
正社員で入社して数年後に契約社員に変わった選手も2人。
山下佐知子監督は、「職場でも陸上でも、ある程度自立ができてくれば、
競技に専念させてもいい」と成長に応じた判断。

最近では、入社と同時に社内留学制度で岡山大に入った
女子中長距離の小林祐梨子(豊田自動織機)のような新しいケースも。
実業団選手の定義は、一層見えにくくなっている。

全員が正社員の老舗チーム、旭化成の宗猛監督は、
「実業団の資格にある程度の線引きは必要。
どんな形でも認めたら、実業団という枠組み自体が無意味になる」。

白水監督は、「プロ的な環境作りが進んでいるのに、
今さら堅く考えたら世界の流れからも遅れる」。
議論はされても、なかなか意見の統一は難しい。

http://mainichi.jp/enta/sports/21century/

地球と暮らす:/37 緑の地球ネットワーク 植樹ノウハウを中国に

(毎日 2月11日)

中国の環境悪化は、地球温暖化への影響はもちろん、
日本の大気汚染にもつながる重要な問題。
中国人の目をもっと環境に向けさせたい。
NPO法人「緑の地球ネットワーク」は、
中国北部の山西省大同市で植樹活動を続けている。

事務局長の高見邦雄さん(59)らは、92年に初めて現地を訪れた。
北京の知人が、「緑化に熱心な地域。美人の産地でいい酒もある」と
同市渾源県を紹介した。

だが、ここの土壌や気候は木の生育に厳しかった。
現地では、山すそに33万本以上のマツを植える計画があった。
高見さんたちはこれに協力し、日本の会員約200人から資金を集めて
苗木代10万元(当時のレートで約260万円)を寄付。

ところが、マツはほぼ全滅。
アンズの植樹にも協力したが、育たなかった。
現地の土は「黄土」と呼ばれる、黄色味を帯びた細かい土。
養分が少なく、通気性も保水性も悪い。
気温は、冬は氷点下30度、夏は39度。
降水量は年200~600ミリと、日本の4分の1。
大半が6~8月に1時間70ミリもの集中豪雨で降り、木が育つ春は水不足。

94年春、大阪市立大助教授だった立花吉茂さん
(植物学、現緑の地球ネットワーク代表)ら、日本の専門家を現地に招いた。
現地では、水を含ませた黄土に苗木を植え、周辺を踏み固めていた。
立花さんは「これでは根が窒息する」と指摘。
黄土に砂や石炭かすを混ぜ、通気性を高めるよう指導。
現地方式で畑に植えたアンズは、1年後に50本中約15本が枯れたが、
立花方式のアンズはすべて勢いよく育った。
マツの根に共生するキノコの胞子をつけて植え、成長を助ける方法や、
グミ科やマメ科の木をマツと混ぜて植え、病虫害に強い林を作る方法も。

今は、植えた木の6~9割が無事に育つ。
日本から毎年延べ300人前後が現地を訪れ、
1人が100~200本の木を植える。
植樹に協力した木は、昨年度までに約1700万本。
植樹面積は52平方キロを超えた。

当初は、「環境保護など豊かな日本人の言い分だ。
経済成長のためなら、我々は汚染さえ望む」との極論も。
昨年9月、日中合同の省エネ会議で中国の曽培炎副首相は、
「植樹活動を続け、日本から2500人以上を連れて来た」と
高見さんたちに感謝したという。
==============
◇緑の地球ネットワーク

93年に発足。05年にNPO法人化。
会員は個人約620人と企業や労組約30団体。
事務局は大阪市港区市岡1の4の24住宅情報ビル501。(電話06・6576・6181)

http://mainichi.jp/select/science/news/20080211ddm016040121000c.html

2008年2月15日金曜日

たばこで年間800万人死亡 WHO、2030年までに

(共同通信社 2008年2月8日)

世界保健機関(WHO)は、たばこに関連する世界の死者数が
2030年までに年間800万人に上り、その約80%が発展途上国だけで
占められる恐れがあると警告する報告書を発表。
先進国で喫煙の規制強化などを受け、
たばこ会社が途上国に販路を拡大するためと指摘。
現在、世界で推定約500万人が死亡。

マーガレット・チャン事務局長は、途上国でのたばこ消費拡大は
「病気や死者を増加させ、労働力の減少や医療費の増加につながる」。
たばこ税の引き上げや禁煙支援の拡充、健康被害の警告強化など
6項目の抑制策を提言。
世界の喫煙者は10億人以上。
約3割が中国で、インド、インドネシア、ロシア、米国、日本。

代表的な27カ国の規制の現状も紹介。
日本では、たばこ1箱の値段が約300円なのに比べ、
英国では5ポンド23ペンス(約1090円)と高額。
日本と米国の間では大きな差はなかった。

広告・宣伝に関する13項目の規制についても、
英国は、(1)国内の雑誌、新聞、(2)国内のテレビ、ラジオ、
(3)広告看板・屋外広告-など9項目をクリア。
日本は、「販売促進目的の値下げ」をしていないという項目が認められただけ。
たばこ税に関しては、世界人口の3分の2をカバーする
計70カ国の税収総額のうち、規制のために振り分けられる支出は
0・2%しかないことが判明。規制に充てる支出を拡大するよう求めた。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&articleId=67397

加齢を遅らせるには、身体を動かすこと

(WebMD 1月29日)

身体をよく動かすことで、生物学的年齢を10歳若くできるかもしれない。
定期的な運動のアンチエイジング効果の「強力なメッセージである」と、
次のCDCガイドラインを支持:
週5日以上の1回30分以上の中強度の運動(早歩き等)または
週3回以上の1回20分以上の激しい運動(ジョギング等)を行う
Kings College LondonのLynn Cherkasらは、
『Archives of Internal Medicine』に報告。

Cherkasらは、英国の成人の双生児2,400例を対象とした試験を実施。
血液、身体活動、喫煙、病歴に関する調査票への記入。
血液検体を用いて、全血球におけるテロメアの長さを測定。
テロメアは、細胞分裂のたびに少しずつ短くなることから、
加齢のマーカーとなる可能性がある。

年齢、性別、喫煙、BMI(肥満度指数)または社会経済的地位にかかわりなく、
よく身体を動かす人はあまり身体を動かさない人よりも
テロメアが長いことが明らかに。
テロメアの長さの差から、「活動的でない被験者は、
活動的な被験者と比べて生物学的に10年老けていることが示唆」。
しかし、本試験はこのことを証明しているわけではない。
被験者の長期追跡調査は行われず、最も長生きした人が
どのような人であったのかは明らかになっていない。

「運動をする人は、活動的でない人と様々な点で異なる」と、
National Institute on Aging のJack Guralnikは記述。
テロメアの長さの重要性については意見が分かれるが、
「人の最終的な寿命を1つの数字で正しく計測するような、
奇跡のツールではない」。

テロメアは、多くの研究で身体活動と良好な健康状態との関連が示される。
身体活動は、14年長く生きるための4つの方法のうちの1つ。
もっと身体を動かす準備が整ったら、まずは医師の診察を受けるべき。

Cherkas, L. Archives of Internal Medicine, Jan. 28, 2008; vol 168: pp 154-158.
CDC: "Physical Activity: Recommendations."
CDC: "Physical Activity for Everyone: Physical Activity Terms."
Guralnik, J. Archives of Internal Medicine, Jan. 28, 2008; vol 168: pp 131-132.

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=SPECIALTY&categoryId=580&articleLang=ja&articleId=67186

Tリンパ球:理研が作り分けを解明 拒絶反応抑制に道

(毎日 2月12日)

体内に入った異物を排除する免疫反応を担う2種類の「Tリンパ球」が
作り分けられる仕組みを、理化学研究所の研究チームが解明。
アレルギーや移植後の拒絶反応を、人為的に抑制する手法の開発に
つながる成果で、米科学誌サイエンスに発表。

Tリンパ球には、異物の侵入情報を他の免疫細胞に伝える「ヘルパーT細胞」と、
異物を直接攻撃する「キラーT細胞」の2種類。
いずれも胸腺で共通の前駆細胞から作られるが、
どう作り分けられているかは謎。
2種のバランスが崩れると、免疫不全やアレルギーなどを引き起こす。

理研の谷内一郎チームリーダー(免疫学)らは、
通常は前駆細胞から「ヘルパー」と「キラー」が2対1の割合でできるのに、
Runx」というたんぱく質を作れないマウスでは、
「キラー」がほとんどなくなることを発見。
Runxが、「ヘルパー」への分化を促す遺伝子に結びついて働きを抑制し、
前駆細胞から「ヘルパー」だけが
作られることのないようにしていることを突き止めた。

谷内さんは、「今回の発見を応用して人為的に作り分ける技術ができれば、
再生医療や免疫疾患の新たな治療法への応用が期待できる」。

http://mainichi.jp/select/science/news/20080213k0000m040115000c.html

2008年2月14日木曜日

「日本一」目指し、健康県ちば宣言プロジェクト始動 千葉県庁でセレモニー

(毎日新聞社 2008年2月7日)

県民それぞれの「健康宣言」で健康に対する意識を深めてもらおうと、
「健康県ちば宣言プロジェクト」をスタート。
宣言と実行の積み重ねで、「日本一の健康県ちば」実現が狙い。
事務局の県健康福祉政策課は、「健康づくりの構造改革を目指す」。

県が、「私の健康宣言」(200字以内)を公募。
「早起きする」、「1日1万歩歩く」、「3食しっかり食べる」など、
自分のライフスタイルや健康状態に合った内容で自由に決める。
同課は、「県民の幅広い参加を期待しています」。
寄せられた健康宣言は、「健康県ちば宣言」ホームページで紹介。

プロジェクトに合わせ、ウオーキングドクターのデューク更家さんが
「ちば健康体操」を発案。
デュークさんが参加する体験ウオーキングが船橋市(24日)、
柏市(3月15日)などで予定。

「健康宣言」の応募要項などは、ホームページ(http://www.chiba100.net/)に掲載。
問い合わせは、同課(電話043・223・2608)。

◇押切もえさん出席、県庁でセレモニー

「健康県ちば宣言プロジェクト」スタートセレモニーで、
堂本暁子知事や「健康宣言」応援大使に任命された県出身のモデル、
押切もえさんらが出席した。
堂本知事は、「県民一人一人がどうやって健康になるかを宣言し、
オール千葉で健康作りをしていきましょう」。

堂本知事自身の「健康宣言」は、「毎日6000歩以上歩く」
「週1、2回の筋トレ」、「毎日記録をつける」の三つ。
押切さんは、「健康大使として、皆さんの健康づくりを応援していけたらうれしい。
人が健康でいるためには、地球の健康も考えてあげないといけませんね」。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=67337

岩手なるか「五輪選手」育成 競技底上げへスーパーキッズ発掘

(産経新聞 2007.12.8)

岩手県では近年、オリンピック出場選手を輩出していない。
子供たちにとって、あこがれの存在が身近にいるかいないかは、
スポーツをする気持ちに大きく影響。
事態を深刻にとらえた県は、世界大会のメダリストを育てようと、
「スーパーキッズ発掘・育成事業」に。

最近の岩手県のスポーツ事情をみると、
2000年からのオリンピックに、出場した県出身選手が1人もいない。
国民体育大会でも30位後半~40位代を推移し、ここ9年間は東北でも最下位。
このままでは、県内スポーツの地盤沈下は避けられない。

危機感を強めていた県教委は、福岡県がタレント発掘事業を始めたと聞きつけ、
「本県でもやってみよう」とスーパーキッズ事業を発案。
似たような事業は、岡山県、和歌山県、北海道美深町でも始まり、
東北でも宮城、山形、福島各県で動きがある。

岩手県では、平成28年に国体が開かれる。
これまで、自治体の選手育成は国体をにらんでのものが多く、
国体が終わると、競技力が低下するのが常。
スーパーキッズ事業には、タレント発掘のシステムを確立することで、
国体終了後の選手育成も継続できるとの狙い。

事業は、県体育協会が県の委託を受け実施。
プログラムは、作山正美岩手医科大学共通教育センター体育学科教授を
委員長とするプロジェクトチームが作成。
作山教授は、「夢のある企画。ジュニアの育成はスポーツ少年団中心で、
小さいうちから1つの競技に偏る傾向。
他種目の可能性も探りながら、知的能力を開発するとともに、
けがをしない体の作り方、動き方を教えていきたい」。

募集に、1180人が応募。
平藤淳県体協業務課長は、「告知に手間取った割には多かった」。
応募者のうち、1114人がチャレンジ2に挑戦。
チャレンジ3には、218人が臨んだ。
(1)優れた運動能力、(2)育成事業参加の確約
を基準に80人程度に絞り込まれる。
スーパーキッズに選ばれた5年生は今後16カ月間、6年生は4カ月間、
原則毎月1回開かれるスペシャルスクールに参加。

この事業は、選考に漏れた子供たちにも公開。
プログラムは、指導者も見ることができる。
県体協では、地域に戻って指導に役立ててもらえば、
競技力の全体的な底上げに。

1992年アルベールビル冬季五輪のノルディック複合団体金メダリストで、
県体協のスポーツ特別指導員を務めている三ケ田礼一氏(40)も関与。
「第1の目的はトップ選手をつくることだが、そこまでいけない子供でも、
挑戦する気持ちが培われれば、スポーツ以外でも、
自分に合った何かに出合えるチャンスが生まれる」。

地域では、指導者の高齢化などで、
望ましいスポーツ環境を与えることができない状況も。
種目によっては、何校かが一緒になってチームを作り、
中学校大会に出るという事態も。
だれでも、どこでも、均質な指導を受けさせることはできないか。
スーパーキッズ事業は、その環境をつくっていく事業でもある。
県教委では、事業を少なくとも10年間は継続したい。
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■いわてスーパーキッズ発掘・育成事業

県内小学校で行われている「新体力テスト」で、
総合評価A・B段階の5~6年生が申し込み
チャレンジ1
▽20メートル走・反復横跳び・立ち幅跳び・垂直跳び・両手大型ボール投げ(前・後)
チャンレンジ2
▽立ち三段跳び・ジグザグ走・4方向ステップ、保護者を加えての面談
チャレンジ3をへて発掘したスーパーキッズと保護者に対し、
プロジェクトチームが作成した能力開発プログラムを実施。

http://sankei.jp.msn.com/region/tohoku/iwate/071208/iwt0712080242000-n1.htm

市町村・医師との連携体制構築を動機づけ支援は面接前準備が重要

(Japan Medicine 1月30日)

4月から特定健診・保健指導がスタート。
高齢化の進展に伴い、伸び続ける医療費を適正化のため、
生活習慣病の発症を未然に食い止めることが求められる。
自覚症状が少ないだけに、生活習慣を改善させることも難しい。
効率的に高い効果を上げることのできる保健指導を確立することが、
制度の理念を達成する鍵。

厚生労働省健康局総務課の剱物祐子保健指導専門官に話を聞いた。

―特定保健指導に求められることについて教えてください。

剱物氏 今までの健診は早期発見が中心だが、
特定健診・保健指導の目的は、対象者を明確化し、重篤な心血管疾患への
進展を防止、生活習慣病予防に関する効果を出すこと。
保健指導を実施する際のシステムを、しっかり構築する。
保健指導を行う人、費用、評価システム、どこに委託するか―など
各段階での取り組みが重要。

保健指導の質は、厚生労働科学研究費の生活習慣病対策総合研究事業で、
「保健指導の質の評価ガイド」開発を行う。
項目は、保健指導の内容、施設の基準、人員、運用、基本方針、
マニュアル、監査体制などを網羅。

―特定保健指導を行う上で留意すべき点について。

剱物氏 積極的支援群などリスクの高い人に対し、
保健指導だけでは、効果をあげるのが難しい。
従来、集団の評価を行った上で、個人の保健指導を行ってきた。
集団によって、理解力や健康への興味が異なり、保健指導の方法も変わる。
集団と個人の両面からのアプローチを組み合わせた保健指導が必要。
プロセスを最初の段階から詳細に検討し、次の保健指導に生かす。
「リバウンド」を耳にするが、保健指導の時だけ効果が出てもダメで、
専門職の手を離れた後も効果を持続させることが重要。
長期的な目で生活習慣病の発症リスクが高い集団全体を評価し、
保健指導を進めていくことが必要。
プライマリケア医の先生では、訪れる患者さんを1つの集団として考える。
地域によって、「塩分が多い」、「運動施設が少ない」、
「農作業に従事していて、季節の差がある」などの特徴が。
各市町村で集団に向けた広報や患者教育などを行うことも重要。

―問題ないとされた「情報提供」群については、どのような保健指導を行うのか。

剱物氏 情報提供は、特定保健指導には位置付けられないが、非常に重要。
特定健診の結果や質問票など、生活習慣の問題点はある程度分かる。
得られた情報を基にアプローチすることで、
動機づけ支援や積極的支援が必要にならないよう指導。
地域や集団の特性、就業形態なども盛り込んで情報提供してほしい。
若い人にはできるだけ積極的に情報提供を行ってほしい。
早めに行動を変えることが、将来を改善していくことにつながる。

―「動機づけ支援」群に対しては、どうでしょうか。

剱物氏 動機づけ支援は、原則1回の支援。
初回面接を最低20分行い、行動変容のための動機づけを行う。
6カ月後に保健指導の効果を評価。
長期間指導の場合、動機づけ支援は最初の面接だけで決まる。
面接前の準備が非常に重要。
健診結果や質問票のほか、情報が入手できるなら積極的に求めてほしい。
医療保険者が企業であれば、産業医の方からストレスなどの情報を入手する。
事後評価を、保健指導に携わるチームで行うことも重要。

―「積極的支援」群についてはどうでしょうか。

剱物氏 基本的な考え方は、動機づけ支援と同様。
積極的支援は、3カ月以上継続的に支援を行い、6カ月後に評価。
支援方法や時間によりポイントが規定、180ポイント以上の支援を実施。
食生活や運動など組み合わせた指導。
運動指導担当者研修を受けた者など、他職種の人材を活用し保健指導を行う。

―初回面接の事前準備で、医師や保健師と医療保険者との連携も重要。

剱物氏 経年的に前年度の面接の記録など、データを集積し、
自然と連携できるようなシステムを構築してほしい。
市や町の特徴についてのデータを持っているのは市町村。
ぜひ、市町村との連携を活用してほしい。
島根県の安来市では、医師会・患者会・保健所との連携体制を構築し、
患者登録管理やハイリスク者への対策、啓発活動など総合的な糖尿病対策。
その結果、糖尿病の医療費の伸びを抑制したという例も。
地域に連携体制が構築されていなければ、地域の医師会や診療所と
市町村との連携体制を構築してほしい。

http://www.m3.com/tools/MedicalLibrary/jiho/200801/series-m.html

2008年2月13日水曜日

新しい分光計測装置の開発で、ホタルの発光の効率を測定

(nature Asia-Pacific)

東京大学物性研究所先端分光研究部門
秋山英文准教授、安東頼子研究員

ホタルの発光は、発光物質ルシフェリンが酵素ルシフェラーゼやマグネシウム、
ATPなどの補因子の助けにより酸化され、反応エネルギーを光として放出。
定説となっているデータは、1959年にSeligerとMcElroyによって計測、
ホタルの発光の量子収率(量子効率)は88±25%。
これは、ルシフェリンの酸化反応が100回行われると88回光るというもので、
発光の世界では驚異的に高い。

この定説を追試したのは、東京大学物性研究所の秋山英文准教授ら。
生物、化学発光の絶対発光量を、定量的に計測できる分光計測装置を開発、
北米産ホタルの発光の量子収率は、41.0±7.4%と定説を覆す結果に

秋山准教授の専門は半導体で、ガリウム(Ga)と砒素(As)を材料とする、
断面寸法14 nm×6 nmの世界で最も細い量子細線半導体レーザーを開発。
量子細線は、電子を閉じ込めて移動方向を制限する量子井戸を重ねて
電子を2次元方向で閉じ込めた構造で、
半導体レーザーの発振性能を改善できると期待。

秋山准教授は、微小空間における微量の光に関し、発光の絶対量を計測する
技術を10年ほど前から研究。「光ファイバーのような導線がある光や
ビーム状に進むレーザーの定量計測はできるが、いろいろな方向に
放射散乱する微弱光の方向と強さを計測する方法がない」。

産業技術総合研究所の近江谷克裕博士(現・北海道大学医学研究科教授)から、
生物発光の分野でも弱い光の強さの基準がないことを知った。
安東頼子研究員が、近江谷教授やアトー株式会社とともに、
ホタルの光をひとつのターゲットとする分光計測装置の共同開発を始める。
ルシフェリンの2つの光学異性体D体とL体のうち、
ホタル生物発光に関与できるのはD体のみで、
ラセミ化(D体とL体が入れ替わり、等量化する現象)は勘案されず、
SeligerとMcElroyの88%という数値は訂正が必要。

2005年、新しい分光計測装置が完成。
発光物質を入れた溶液から、放射される光量を校正する方法を開発し、
分光した光の全量を発光光子数として絶対単位で評価し、量子収率を計算。
ルミノールを計測し、量子収率1.2%という定説と同じ数値を確認。
安定した数値を出すには条件を整え、何度も実験を繰り返した。
「溶液に泡があるとうまくいかないなど、測定してみてわかることが多い」。

ホタルの計測では、溶液のpHの違いによる発光の違いも。
ホタルの発光物質は、アルカリ性溶液中では緑色、
酸性溶液中では赤く光ることを、SeligerとMcElroyが報告、
これまでは緑と赤の発光が入れ替わると考えられてきた。
安東研究員らの研究から、赤の光はアルカリ性溶液中でも出ており、
溶液のpHによって変わるのは緑の光だけである可能性が高い。

同じホタルの仲間であるヒカリコメツキムシやテツゾウムシを調べる予定。
ヒカリコメツキムシは緑、テツゾウムシは赤の発光が強く、
反応酵素ルシフェラーゼに違いがある。

秋山准教授は、「絶対発光量の測定で、わからなかった事実が明らかになり、
共通の光の量の単位を用いて定量的に話せるベースにも。
分子イメージングの蛍光物質の明るさは、この製品は○フォトンというように、
技術的な基準にもなる。今後はこの装置を市販品として完成させると同時に、
どんな分野で使えるかという例を示していきたい。
世界のいろいろな分野で使い、改良して、分光計測のスタンダードにできれば」。

光は通信、記録、医療の診断などさまざまな分野で電気に替わって
使われるようになり、今後もその傾向は強まると予想。
光を測る新しい技術の今後に注目したい。

http://www.natureasia.com/japan/tokushu/detail.php?id=75