2008年10月14日火曜日

ものづくり(1)僕らの人工衛星 高専5年間没頭

(読売 10月7日)

高等専門学校の学生が、宇宙に思いをはせる。

東京都立産業技術高等専門学校電子工学科5年幕田竜さん(20)は、
荒川キャンパス内の教室にできた手作りのクリーンルームにいた。
水色の除菌服、帽子、マスク姿で取り組んでいたのは、
1辺約15センチの立方体にフタを取り付ける作業。

立方体の正体は、超小型人工衛星。
宇宙航空研究開発機構が打ち上げるH2Aロケットへの搭載が決まっている。
打ち上げ時期は、今年度中の予定。

同校は2年前、荒川区の航空高専と品川区の工業高専の都立高専2校が
合併して誕生。公立大学法人首都大学東京が産業技術大学院大学を新設
東京都は今年度から、同校も同法人の傘下に組み入れた。
この結果、高専で通常の5年の後、専攻科で2年学び、
さらに大学院の修士課程に進めば、計9年間、
ものづくりの一貫教育を受けることが可能に。

高専生の作った人工衛星を宇宙に飛ばすプロジェクトは、
石川智浩准教授(32)が2003年に赴任、
宇宙科学研究同好会の学生たちに声をかけて始まった。
石川准教授は、北海道工業大学で超小型衛星システムを研究、
「大学院まで続けて、無重力実験施設での実験までしかできなかった。
15歳から始めれば、より深いところまで到達できる」。

石川准教授から声がかかるまで、同好会は衛星設計コンテストに
参加する程度で、ものづくりまではやってこなかった。
最初に手を挙げたのは2人。
だが、すぐに幕田さんら新入生3人が加わり、現在は15人。
他の教授や准教授もプロジェクトに加わり、
この5年間で衛星づくりに取り組んだ学生は約40人。

学生が、特別な技術を持つわけではない。
夢のある話も、学生が実現性を感じなければ、力が入らない。
石川准教授は、製作工程を200以上に細分化した。
難しく見える作業も、簡単なことの応用を繰り返すだけという
認識を持たせるため。
メンバーの役割は、電源担当、通信担当、カメラ担当などに分かれ、
幕田さんは、衛星を回転させる装置を担当。

予算が少ないため、材料は秋葉原の安売り店や通販で購入することが多い。
ゴミ捨て場で廃材集めもした。
金属加工など特殊な技術が必要になると、学生たちも近くの工場を回った。
「夢のあることだ。早く相談してくれればよかったのに」と
協力を快諾する経営者が現れ、衛星を囲う金属パネルを
厚さ1ミリ単位で削って組み合わせてもらうなど、採算度外視で協力。
東京商工会議所荒川支部主体の
「荒川区から衛星打ち上げを応援する会」も生まれ、寄付金も集まるように。

宇宙航空研究開発機構の審査には、2年前に通った。
東大、東北大、香川大の人工衛星と一緒に搭載。
宇宙では、地球からの指令を受けて、人工衛星を移動させたり、
地球や宇宙空間をカメラ撮影して画像を地球に送信したりする。

5年間をこのプロジェクトにささげてきた幕田さんは、
「入学当時、ものづくりの経験はほとんどなかった。
好きでやる気があれば、何でもできると実感した」。

石川准教授は、「学生の興味は様々。こういうプロジェクトがたくさんあれば、
ものづくりに参加する学生が増える」と期待。
新たに、金星方面に行くロケットに搭載される
小型衛星プロジェクトにも取り組み始めた。

ことあるごとに口にされる、ものづくり大国復活への期待。
まず若者に興味を持たせ、ものづくりにのめり込むきっかけを
提供することが肝心だろう。

◆製造業離れ 対策進む

日本の経済成長を支えてきた、ものづくりの基盤が揺らいでいる。
少子高齢化による人口減少が進む中、ものづくりにかかわる企業で、
工場の海外移転が進んだ上、団塊の世代の大量退職期を迎え、
後継者をどう育てるかという問題に直面。

経済産業省によると、製造業への新規学卒就職者は、
1992年の約34万人をピークに減少、
03年に約13万4200人と過去最低を記録。
その後、若干プラスに転じたものの、92年の半分以下という低水準に。

工業高校の数も、1975年の736校から07年には613校にまで減少。
特に、都市部でその傾向が著しい。
都教育委員会が、企業ニーズに応えるため、
工業高校での資格取得支援やものづくり企業での就業体験に力を入れるなど、
自治体レベルの対策が進む。

経産省や文科省も昨年度から、高校生の企業実習や企業技術者の
学校での実践的指導などを盛り込んだ「地域産業の担い手育成プロジェクト」
を始めるなど、対策に乗り出している。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081007-OYT8T00211.htm

0 件のコメント: