2008年10月17日金曜日

ものづくり(4)学生の発想 ホンダ刺激

(読売 10月10日)

大企業と協力して、ものづくり教育を進める大学がある。

山形市の緑豊かな郊外にある東北芸術工科大学の研究棟には、
これまでの学生の作品を集めて展示した場所がある。
カメラ、かばん、いす……。
一際目立つのが、除雪機のハンドル。
正面に「HONDA」の文字。
2年前、当時3年生だった森泰香さんが作ったモデルを基に、
ホンダの技術者が作った。

多くの学生が、除雪機の外形をデザインしたのに対し、
森さんは操作部分に着目。
既製のものは大型で曲がりにくく、お年寄りや女性が簡単に作業できない。
その発想の面白さをホンダが評価し、
そのハンドルを組み込んだ試作機まで作った。
学生の作品を基に、大企業が技術と費用を投入するのは極めて異例。

同大では2005年から、プロダクトデザイン学科でホンダとの
共同授業を行っている。
一つのテーマで約4か月間、デザインを考え、社員の前で発表。
さらに4か月間で工業用粘土を使ったモデルを作り、
社員や教授らから評価を受ける。

担当の上原勲教授(44)は、ゲーム機から車まで多様な製品を手がける
現役の工業デザイナー。
「デザインというと、提案して終わりという場合が多いが、
体験して気が付いたことを基礎に発想し、自ら金属や木材、化学素材に触れて
モデルを作ることで、改めて気付くことが出てくる」と体験に力を入れる。

ホンダの汎用エンジンを使った耕運機の製作が課題だった初年度は、
大学近くに畑を作り、既製の耕運機を使って野菜を作った。
2年目の除雪機も、学内に積もった雪を実際に取り除いた。

ホンダのデザイナーが、授業で技術的な助言をすることも多い。
アイデアスケッチをその場で描いたり、絵を粘土で3次元にしてみたり。
ホンダの滝沢敏明主任研究員は、
「プロの技を目の当たりにして、面白そう、楽しそうと純粋に思ってもらうことが、
ものづくり日本の復活につながる。
東北芸術工科大の取り組みは、まさにホンダが重視する
三現主義(現場、現物、現実)」

現在は、汎用エンジンの利用をテーマに12人が取り組む。
植樹用の穴掘り機、雨水の浄水装置、日焼け止めミスト噴射機と
様々なアイデアが並ぶ。
同学科3年の長谷川徹さん(20)は、軽い耕運機が硬い土では
使いづらいことに気付き、水を入れて重量を増やすモデルを作製中。

「素朴な疑問で向かってくる学生と接することで、
ホンダのデザイナーにも良い刺激になる」と滝沢主任研究員。
採用に直結したプロジェクトではないが、参加学生のうち、
森さんを含む4人がホンダに就職。
「能力を示せば、試作機が作ってもらえ、就職も出来るかもしれないと、
学生にいい意味の競争意識が生まれている」(上原教授)

同大では現在、キヤノン、東芝などとも同様の取り組みを進めている。
長い目で、種をまくような企業の協力が、もっとあっていい。

◆三現主義

ホンダの創業者本田宗一郎氏が提唱。
「現場に行く」、「現物(現状)を知る」、「現実的であること」ということを
行動指針とし、これら三つの「現」を大切にしていこうという考え方。
同社には、「社長は技術畑出身であるべき」という伝統、
福井威夫現社長まで歴代の社長6人はすべて技術畑出身。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081010-OYT8T00210.htm

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