2009年3月15日日曜日

iPS細胞、相次ぐ研究成果 再生医療に新たな展望

(2009年3月9日 毎日新聞社)

さまざまな細胞に分化する能力を持つ新しい万能細胞
「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」が、ヒトの体細胞から作られて1年あまり。
使えなくなった組織や臓器の再生を目指す研究が脚光を浴び、
日本再生医療学会では、iPS細胞を使った成果が数多く報告。
難病治療の切り札と期待される再生医療の実現は、どこまで近づいたのか?

◇「がん化」防止が課題

「iPS細胞登場の衝撃から研究が進み、医療応用への展望が見えてきた」
iPS細胞を開発した山中伸弥・京都大教授が座長を務めたシンポジウム。

学会では、期待を抱かせる成果が次々と発表。
中内啓光・東京大教授は、マウスの骨髄から取った血液のもとになる
細胞を使い、iPS細胞を作った。
将来は、採血だけで自分の治療に必要なiPS細胞を作ってもらえるかも。

岡野栄之・慶応大教授は、ヒトiPS細胞から作った神経細胞を使い、
脊髄損傷マウスの運動機能を回復させることに成功。
iPS細胞から再生医療に利用可能な細胞の作成に成功したとの報告も。

1)出血性の病気の治療に役立つ血小板
2)脊髄損傷やパーキンソン病の回復につながる神経細胞
3)心臓病治療に役立つ心筋細胞

「胚性幹細胞(ES細胞)」は、生命の萌芽とされる受精卵を壊して作るため、
倫理的に問題があるとの批判。
研究のスピードは上がらず、ヒトES細胞が作成されたのは98年だが、
世界初の臨床試験が米国で承認されたのは今年1月。
脊髄損傷患者を対象にした臨床試験が始まる見通し。

iPS細胞にはそうした問題点はなく、「目的の細胞に分化する能力は、
ES細胞と基本的に同じ。ES細胞の研究で培った技術は、iPS細胞にも利用できる」
研究の加速が期待でき、今後5-10年後には臨床研究に。

分化を終えた体細胞を、人工的に受精卵と同じ状態に戻したiPS細胞には
謎も多く、治療に使うことへの不安は大きい。
最も大きな障害は、作った細胞にがん化の恐れがあること。

山中教授が開発した方法では、がん遺伝子を含む四つの遺伝子や、
それらの運び役のレトロウイルスを使う。
いずれも、細胞のがん化を招くと指摘され、
がん遺伝子やレトロウイルスを使わない方法の研究が進んでいる。

山中教授は、「本当にレトロウイルスなし、がん遺伝子なしが最適か?」と
問題提起。マウスの実験では、がん遺伝子を使わないと
iPS細胞の分化能力が落ちるとのデータを紹介。
レトロウイルスを使わない方法でも、6割でがんが生じた。

ぬで島次郎・東京財団研究員(科学政策論)は、
iPS細胞研究には、生命発生の謎を解明するという意義がある。
性急に治療の実現を望むだけではなく、科学的な解明を求めていく
息の長い付き合いが必要」

◇難しい「規格化」

顕微鏡の向こうで、一つの細胞が拍動している。
バイオベンチャー「リプロセル」(東京)が、ヒトiPS細胞から作成した心筋細胞。
同社は、薬物の毒性試験を受託する事業を始める。
ヒトiPS細胞を使ったビジネスは、世界初。

横山周史社長は、「新薬開発の期間短縮に役立ってほしいが、
治療用の細胞販売が事業化されるかどうかは未知数だ」
再生医療を一般的な治療に広げる産業化には、
大量に生産する細胞などの品質を保証する標準化が必要。

製品の信頼性を担保する規格作りや品質管理が欠かせないが、
ここにも壁がある。
細胞の均質性を確保するのは難しい。
日本では、再生医療用の素材や細胞を「医薬品」として扱うか、
「医療機器」として扱うかも決まっていない。

国際標準化機構(ISO)の再生医療関連部会委員の堤定美・日本大特任教授は、
「承認基準に透明性を確保し、医療機器扱いにして規格化を進めるべき。
日本企業の技術を規格案として提出し、世界中の患者に貢献できる
産業化をけん引してほしい」と提言。
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◇iPS細胞

大人の皮膚細胞など、体細胞に遺伝子などを導入することで、
受精卵のように体のさまざまな細胞になれる能力を再現した細胞。
京都大の山中伸弥教授らは06年、マウスの細胞で成功、
07年11月にはヒト細胞での成功を発表。
患者本人の細胞から作れるため、拒絶反応の起きない組織を作り、
難病治療に使える可能性がある。
病気の仕組みの解明や薬の探索にも役立つと期待。

◇iPS細胞から作られた主な細胞
▽ヒト
・血小板(東京大)
・網膜色素上皮細胞(理化学研究所)
・大脳立体構造(同)
・神経細胞(慶応大)
・心筋細胞(米ウィスコンシン大)
▽マウス
・軟骨(近畿大)
・血液細胞(京都大)
・骨格筋細胞(同)
・角膜上皮細胞(慶応大)
◇マウス実験で治療に成功した病気
・脊髄損傷(慶応大)
・鎌状赤血球貧血症(米マサチューセッツ工科大)
・パーキンソン病(同)
・血友病(米ネバダがん研究所)

http://www.m3.com/news/GENERAL/2009/3/9/93252/

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