2009年3月21日土曜日

学士力(8)本物のビジネスに参加

(読売 3月14日)

社会で即戦力として役立つ人材の育成が、大学に求められている。

「自分の提案を聞いてもらいたいなら、もっとはっきり話しなさい!」
担当教授の厳しい声が飛ぶと、企業の営業戦略担当者の鋭い指摘が続いた。
「エリンギは、『食物繊維が豊富』と言うけど、データは?
根拠がない説明は説得力がないですよ」

愛知学泉大学家政学部管理栄養士専攻の学生11人と、
コンビニエンスストア「ココストア」(本社・名古屋市)による
弁当共同開発プロジェクト。1月末の会議は緊張感が張りつめた。

学生たちは昨年4月から、「売れる弁当を」というココストアの要請に応え、
5度の試作品制作を経て、野菜中心のおかずをそろえた
「メタボ予防弁当」を提案、開発。
この日は、宣伝用ちらしに載せる情報や弁当の基本理念の最終確認を、
リーダーの2年生、疋田健人さん(20)が発表。
次々と質問を浴びて言葉に詰まる場面もあったが、
「将来は栄養教諭になりたいので、人に理解される説明能力が必要。
厳しい指導のおかげで実力は付いたと思う」と振り返った。

同大は、専門知識を身につけるだけでなく、知識を活用する実践を通して
「地域社会で即戦力として活躍できる人材の育成」を目指す。

2年前から始まった、弁当開発プロジェクトもその一環。
「栄養学の知識を、実社会で活用する生きた訓練の場。
本物のビジネスに参加することで、責任感も生まれる」と安藤明美教授(50)。
学生に自己評価させると、「創造力」や「柔軟性」「規律性」などが
大きく成長したという結果。

これまで2種類の弁当が発売され、うち若いサラリーマン向けの
「午後力弁当」が、ココストアの弁当の中で最大の売り上げを記録。
たんぱく質、脂質、炭水化物のバランスに配慮し、
午後のエネルギー補給を意識した弁当。
「この実績も、学生の意欲に結びついている」と安藤教授。

同大は、経済産業省が昨年度から開く社会人基礎力育成グランプリの
第1回大会で準グランプリを、
40大学が参加した第2回では特別奨励賞を受けた。

現状のプロジェクトは、任意参加の課外活動だが、新年度から、
すべての授業で「社会人基礎力」育成を位置づけ、全学的に取り組む。
授業ごとに理解度を自己評価させ、参加意欲を促す。
同一課題をグループで取り組ませ、成果を発表する機会を与え、
チームで取り組む力と課題発見力を育てる授業も取り入れる。

こうした改革を進めようとしていた矢先の5日、
社会人基礎力の根幹を揺るがす事故が起きた。
1年生の男子学生が、学内で禁止されている飲酒が原因で死亡。

若林努学長(64)は、「重い責任を感じている。
教員のきめ細かな指導体制に加え、社会人基礎力を育てる教育の重要性も
再認識した。教員一丸となって取り組みたい」

◆社会人基礎力

経済産業省では、主体性や実行力などの「前に踏み出す力」、
課題を見つけ計画を立てる「考え抜く力」、自分の考えを伝え、
相手の意見を聞きながら目標に向かう「チームで働く力」の三つの養成を提唱。
約3700社を対象に、2006年に実施した調査では、
「前に踏み出す力」を最も重視する企業が多かった。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090314-OYT8T00361.htm

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