(読売 3月5日)
学生自身に試験問題を考案させる。
「大学の責務とは何か」について、38人の学生が六つのグループに分かれ、
額を寄せ合って議論。
弘前大学での選択授業「国際社会を考える――日米大学の比較から見た
教育と研究の現状」。1年生を対象にした全学的な授業。
議論のテーマは、土持ゲーリー法一教授(64)が、事前に課題図書を示し、
授業は毎回、クイズ形式で始まる。
グループごとに解答を発表し、教授が解説を加えて、さらに議論を深めていく。
計6問が出て、全問正解グループはなし。
「残念!賞品はハワイ旅行だったのに」と残念がってみせる土持教授に、
学生たちは笑い声をあげながら、解説をヒントにして
新たな疑問を書き留めてもいく。
「全入時代の大学の責務は?」と書き込む学生を見つけ、
土持教授がささやいた。
「もしかしたら、これが期末試験の問題案になるのですよ」
自ら課題を見つけ、解決の道筋を探る「問題解決力」を育てようと、
この授業では、昨年度からこうした手法で試験の問題と解答、解説の案を
学生に提出。採用されれば、成績にも反映されるから、学生は必死。
授業の目的は、日米の大学教育の比較を通して、
なぜ大学に入ったかを1年生のうちに見つめ直させること。
「学生たちは、狙いを深く理解できるようになった」と土持教授は胸を張る。
改革のきっかけは近年、意欲も目的もなく入ってくる学生が増えていると感じた。
「与えられた課題をこなせばいいという、高校までの学習スタイルを
早く転換しなければ、4年間の学習は維持できない」
米国籍を持ち、日米の複数の大学で教えてきた経験から、
なおさら危機感を募らせた。
授業の効果を高める「仕掛け」は、ほかにもある。
「聞きっぱなし」を許さず、討論への積極参加や課題提出を課す。
毎回、数冊指定する課題図書は、図書館で借りるよう指示、
貸し出しスタンプを集めないと出席できなくする。
クイズ用紙には、コインで削る「スクラッチカード」を利用し、
現代っ子になじみやすい「遊び感覚」も忘れない。
試験問題の自作は、米国の理系大学の最高峰、
マサチューセッツ工科大学(MIT)が成果を上げていることを知り、
国内でいち早く取り入れた。
「MITでやっている」と言えば、学生にもがぜん意欲がわく。
「毎回大変だが、生まれて初めて勉強が面白いと思った」と
理工学部の1年生(19)は喜ぶ。
土持教授は、教員側にも「転換」を求めている。
自らが中心となった教員研修に、昨夏から学生数人を招き、
「大学の学び」をテーマに一緒に議論する場を設けた。
ホームページ上での「教育者総覧」の掲載を提案し、採用。
学生に向けたメッセージや教育に対する自分の熱意など、
6項目を各教員が発信することで、
教育姿勢の見直しや改善に役立てることを狙った。
授業の公開も表明。
教員は参観に訪れないが、土持教授は「一歩ずつですよ」とおうように構えている。
◆大学で重視される「問題解決力」
ベネッセコーポレーションが昨年9月、国公私立大学の677学部長に
「今後特に重視して育成していきたいスキル・能力」を聞いた結果、
58%が、自ら課題を見つけ、必要な情報を収集・分析・活用して解決する
「問題解決力」をトップ。「理・工・農」学部系は67%。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090305-OYT8T00286.htm
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