(読売 3月6日)
入学前教育が、学習意欲や目的意識の育成でカギを握る。
2月中旬、キャンパス全体はひっそりとしているのに、
三つの教室だけが授業の熱気であふれていた。
一つ目の教室は英語。be動詞の使い方を復習。
隣の教室は数学。黒板には「速さ=距離/時間」の公式と「は・じ・き」という
語呂合わせが書かれている。
公式を思い出し、文章題を解こうとしている。
最後の教室は国語。約50人が作文用紙に筆記用具を走らせていた。
聖学院大学(上尾市)の入学前準備教育。
約150人の高校生が11日間、3教科を学ぶ。
「新生活への不安を抱えた入学直前期をどう過ごさせるかで、4年間が決まる」と、
発案者である同大広報センターの山下研一所長(54)は強調。
始めたのは8年前。
面接や論文などで選抜するAO入試の導入と引き換え。
学習意欲がない、アルファベットの順番もあやふやといった学生が
問題になっていただけに、AO導入でさらに授業がしにくくなるという
教員の不安を解消するため。
そこまでしてAOを進めたきっかけは、食堂で耳にした学生同士の会話。
雑誌の企画などを手がけてきた東大出身の山下さんが、
入試改革担当として着任してまもない頃。
「どうせ、この大学はだれでも入れるから」
自信がなければ、学習意欲や目的意識を持てるわけがない。
AOを通して、「君たちは大学に選ばれた学生だ」と伝え、
自信と誇りを持たせようと考えた。
入学前なのに、大学に通学させることにこだわるのも同じ理由。
担当者は、勉強嫌いの生徒とつきあい慣れている予備校の教員を集めた。
内容は、小中高校の復習にとどまらない。
知識をもとにした「考える力」の育成につながるよう、数学では、
数学的な考え方で暗号を解読したり、英語では雑誌を読んで内容について
話し合ったり。「偏差値でランク付けされ、傷ついた生徒が目立つ。
学習は、広い世界への入り口だと知ってほしい」と
英語担当の上島康道さん(39)は力をこめる。
昼休みは個人面談に充て、在学生が一人ひとりの生徒と話し、
高校と大学の違いや不安を聞き取る。
「私も入学前から支えてもらった。一緒に大学生活を楽しもうね、と伝えたい」と
面談を担当する人文学部3年の女子学生(21)。
準備教育は3月にも行う。
自由参加で、受講料は各2万円かかるが、計250人と入学者の約4割が参加。
個々の理解度や面談の記録は各学部に渡し、新生活への軟着陸も図る。
「学業成績の向上など、はっきりした成果は示せていない」(山下さん)が、
受講生らは、「友達や先輩と仲良くなれた」、
「大学生活が楽しみ」と口をそろえる。
一昨年度の卒業生約500人に、大学教育への満足度を100点満点で
尋ねたところ、平均点は約72点。3人に1人は、80点以上を付けた。
目に見えた成果が出るのも、そう遠くなさそうだ。
◆AO入試、7割が導入
AO入試は、2008年度で全大学の約7割を占める498大学が実施。
選抜方式の多くは、面接と高校からの調査書を含む書類の審査。
実施時期も一般入試よりかなり早いため、多くの大学が基礎学力の担保や
入学者の意欲の維持に頭を悩ませている。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090306-OYT8T00300.htm
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