2009年3月19日木曜日

学士力(6)「学びの軌跡」で適性探る

(読売 3月12日)

学生が適性を探せるよう、大学が知恵を絞る。

「建築の勉強が楽しくない」、
「建築にもいろいろな分野がある。もう少し見直せば楽しくなるよ」
パソコンの画面に、そんな学生と教員の言葉が並ぶ。

北海道工業大では、1~3年生約2700人全員が年2回、
担当教員と面談して、目標の達成状況や新たな目標を話し合う機会がある。
面談前には、学生が「履修の目標」、「理解できない科目」など、
パソコン上の項目に自らの目標や悩みを書き込む。
教員は面談後、パソコンでアドバイスを入力、
こうしたやり取りが毎回蓄積されていく。
学びの軌跡を記録する「ポートフォリオ」(PF)。

「学生のキラッと光るところを伸ばしてやること」が同大のモットー。
入学後に、適性検査で性格の傾向や適した職業なども把握し、
個々に合った支援を心がける。

同大では、大勢の学生を相手に全体事務を行う担任とは別に、
PF担当の教員が付く。
約150人の教員が1人約30人ずつの学生を3年間、受け持つ。
パソコン上の過去の記録は、4年生になるとゼミの教員に引き継がれ、
就職活動にも活用。
入学から卒業まで、学生の一人ひとりに教員が目を配ることに。

PFを始めたのは2001年。
「20年前の学生は放っておいても大丈夫だったが、
10年前から大学に入っても目的意識がなく、留年や退学する学生が増えた。
手間をかけて導くことの大切さを実感している」と
同大企画室長の苫米地司教授(56)。

2年の留年率が最も高い。
受験時に考えていた教育内容と入学後の現実との隔たりによる意欲の喪失、
大学生活への戸惑い、学力不足、コミュニケーション能力の欠如――
そんな理由が考えられる。

今春卒業する4年の女子学生も、悩んだ1人だ。
建築学科のデザインコースに入ったが、
「授業が自分に合わないと感じた。入学前はよく分かっていなかった」

2年になった頃、PFで担当教員に相談すると、
同じ学科にあるエンジニアリングコースを勧められた。
2年の後期にコースを変えたところ、「答えの出ないデザインより、
構造計算など、学べば学ぶほど結果の出る授業が楽しかった」
大手ゼネコンへの就職が決まっているが、
「あのまま悩んでいたら、就職できたか分からない」と思う。

2年の留年率は、PFを始める前には12~15%もあった。
実施後は7~9%に下がり、「PFの成果だと思っている」と苫米地教授。
07年度は再び2けたに増えており、新たな対策が必要に。
4月からは、学生部、就職部、教務部の3部を統合した
学生サポートセンターを発足させ、情報を共有化するなど、支援体制を強化。

どうやって学生に意欲を持たせ、長所を伸ばしていくか?
大学の試行錯誤は続く。

◆ポートフォリオ

紙ばさみを意味する言葉。
経済用語では「資産の一覧表」、「分散投資の選択」などの意味で使われるが、
教育分野では学生が学習の過程や成果などを長期にわたって
収集したものを表す。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090312-OYT8T00306.htm

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