2009年10月8日木曜日

エコ化する米スポーツ界

(日経 09/06/15)

◆山口日出夏
環境エネルギー政策研究所研究員。デラウェア大学大学院
環境エネルギー政策センター博士課程終了。
横浜国立大学工学部 建築学修士修了。
フランス生まれの横浜育ち。
バージニア工科大学大学院建築学交換留学を機に渡米。在米10年。

昨今の米国内での環境問題への積極的な姿勢を受け、
米スポーツ界にもエコ風が吹き始め、
新しい環境市場が動き出してきた。
エコとは関係なさそうなスポーツ界も、エコと深くかかわり始めた。

◆ファンを巻き込むリサイクル活動「ファンカンズ」

エコとスポーツ。
サイクリングや登山など、アウトドアスポーツならエコを連想しやすいが、
野球にアメフト、バスケットなどのプロスポーツが
エコと聞いてもなかなかピンとはこない。
「ファンカンズ(Fan Cans)」のニュースを知るまで、
少なくとも私はその1人。

ファンカンズとは、新しいスタジアム用の缶・ペットボトル用
リサイクル回収箱。
チームのロゴ入りヘルメットをかぶった
ユニークなリサイクル回収箱。
素材の50%が再生プラスチックでできており、
廃棄後は100%リサイクル可能。

飲料水の販売会社がペットボトルや缶の回収率を上げ、
自社の環境面でのポイントを上げるための方策の1つとして、
スポーツ界と手を組んだ。

ドリンクのゴミがたくさん出るスタジアムなどで、
応援するチームのロゴが入ったリサイクル回収箱なら、
ファンが楽しんでリサイクルに協力してくれるだろうとの思惑。
このようなスポーツ業界とエコ活動の結び付き、実は少なくない。

◆省エネ、クリーンエネルギー ――メジャーリーグとエコ

日本人選手の活躍が目立つメジャーリーグ。
その米プロ野球界も、エコと関係がある。

先駆的存在は、サンフランシスコ・ジャイアンツと
そのホームスタジアムであるAT&Tパーク・スタジアム。
2007年のオールスターゲームで、イチロー選手が
オールスター史上初のランニングホームラン記録を
打ち立てたスタジアム。

サンフランシスコ市は、環境に配慮して、
スーパーでのプラスチック・レジ袋の無料配布廃止を
米国内でいち早く実践し、米国内では環境先進都市。

サンフランシスコ市が、07年オールスターゲーム開催に先駆け、
サンフランシスコ・ジャイアンツのスタジアムのエコ化を実現。

このプロジェクトでは、特にエネルギー利用の改善に焦点をあて、
約590枚(総120キロワット)のソーラーパネルをスタジアムに配し、
省エネ電球やモーションセンサー(人体検知赤外線センサー)
付きライトを積極的に導入し、省エネを図った。

プロ野球スタジアムに、ソーラーパネルを敷設したのは
米国で初めての試み。
07年は、メジャーリーグでの日本人選手の活躍だけでなく、
米プロ野球界とエコの連結においても記念すべき年。
AT&Tパーク・スタジアムを契機に、現在では様々な
野球スタジアムで、エコ化を試みている。

ピッツバーグ・パイレーツのホームである
PNCパーク・スタジアムでは、スタジアム内のドリンク容器の
リサイクル率の向上と、環境に配慮した使い捨て容器の
利用・促進に力を入れている。

フィラデルフィア・フィリーズのホーム、
シチズンズ・バンク・パーク・スタジアムでは、
08年、2000万キロワット時のクリーンエネルギーを
購入することを発表。
シーズン中の全試合を100%クリーンエネルギーで運営、
エネルギー面で、メジャーリーグで最もクリーンなスタジアムに躍進。

ニューヨーク・メッツの新ホームスタジアム、シティ・フィールドでは、
建設における環境負荷の軽減を図った。
鉄骨全体の95%をリサイクルされた鉄骨にし、
リサイクルされた石炭燃焼生成物(火力発電所で石炭を燃やした際、
発生する燃焼灰、飛灰など)を積極的に利用し、
約800トン余りの二酸化炭素の排出を削減。
低流量配管システム導入により、1年間で約1500万リットルの
節水を可能にする。

◆プロ野球に続け、バスケット、アメフトにもエコの波

プロ野球のスタジアムで見られたエコ化は、NBAやNFL界でも同様。
中でも際立っているのは、ホームスタジアムの
リンカーン・フィナンシャル・フィールドを風力エネルギー100%で
運営している、NFLのフィラデルフィア・イーグルス。

リサイクル率向上に力を入れ、再生紙の使用、環境負荷の少ない
使い捨て容器の利用なども進めている。
最近では、新たにソーラーパネルも設置、その活動は多岐に。

「イーグルス・フォレスト」という森林を所有、
そこにはファンが購入した1500本余りの樹木が茂る。
この森林では、子どもが選手と一緒に植林ができる
プログラムなどもあり、教育面も力を入れている。

フィラデルフィアが、持続可能な未来の創造に大きく貢献したと
思われる活動に賞する
「フィラデルフィア サステナビリティー アワード」も受賞した
イーグルスは、NFLの中だけでなく、プロスポーツ界全体において
環境活動においてリーダー的な存在。

NFLでは、スーパーボールを、100%クリーンエネルギーで
運営するという取り組みを、08年から実施。
グリーンベイ・パッカーズのホームアリーナの
ランボー・フィールドは、リサイクルの強化や環境負荷の
小さな使い捨ての食器の利用促進を進め、クリーンエネルギーを購入。

スーパーボールのチケットを販売するチケット会社の
スタブハブ(StubHub)は、この会社を通してチケットを購入すると、
チケット1枚につき1本の植林をする
「チケット・フォー・ツリーズ(Tickets for Trees)」という
ユニークなプログラムを立ち上げ、
プロ・フットボール界におけるエコ活動をサポート。

NBAも、NFLやMLBのいい影響を受けている。
日本人初のNBAプレーヤー、田臥勇太選手が在籍した
フェニックス・サンズも、09年オールスターゲーム開催に向け、
ホームアリーナのUSエアウェイズ・センターに、
194キロワットのソーラーシステムを導入
開催用に、1500 メガワット時相当のクリーン・エネルギーを購入。

◆拡大するスポーツ界のエコ化

昨今の景気悪化により、環境に対する活動を縮小する分野が
多い中、米プロスポーツ界のエコ化は、景気低迷による
ネガティブな影響を見せず、反対に年々勢いを増して元気。

メジャーリーグでは、MLB全体で連携・協力して環境活動を
行えるように、チーム・グリーニング・プログラムを、
昨年に打ち立て本格的に動き始めた。

NBAでは、プロバスケ界で初めてのグリーンビルディングの
基準となるLEED認証
(The Leadership in Energy and Environmental Design)
認定を受けたアリーナ(アトランタ・ホークスの本拠地である
フィリップス・アリーナ)を誕生。

NFLは、スーパーボールでの優勝チームのロゴ入りTシャツを、
100%オーガニック・コットンで製作する、斬新な取り組み。

スポーツグッズ市場も追随。
ナイキは、環境負荷を減らしたシューズ「エア・ジョーダンXX3」を販売、
米服飾メーカーのアメリカンアパレルや、ヨガ用品の小売業の
プラナ(prAna)は、オーガニック・コットンを利用したウェアを
販売すると発表。
パタゴニアは、商品全てにリサイクル可能な素材を利用する
プロジェクトを立ち上げ、アウトドアブランドのザ ノース フェイスは、
1メガワットのソーラーパネルを設置。

年々強まる米スポーツ界とエコのつながり。
MLBは全30チーム、NBAは30チーム、NFLは32チームで構成、
三大スポーツ界全体に、エコ活動が浸透するだけでも
大きなインパクトが見込まれる。

カレッジ(大学)スポーツも、プロに負けないほどの人気。
プロでのエコへの取り組みが、将来的にカレッジにも
浸透するのは時間の問題。

国内のみならず、全世界で絶大な人気を誇る米プロスポーツ。
プロスポーツがエコ活動においても同様に、
全世界に向けて積極的な情報発信ができれば、
エコに対して新しい大きな原動力になることは間違いない。

経済力、信用の失墜に頭を抱える米国がこれを機に、
スポーツという分野を通して、今までの環境分野での遅れを
取り戻し、環境先進国の仲間入りを果たす。
この新しい分野で、世界の主導権を握るような国に
生まれ変われればと期待が高まる。

あまり興味のなかったプロスポーツではあったが、
これからは野球観戦も環境に貢献する1つの形となると知った今、
すぐにでもメガホン持って応援に駆けつけたい――
そんな気持ちに駆られてしまったのは私だけであろうか。

http://eco.nikkei.co.jp/column/yamaguchi_hideka/article.aspx?id=MMECzc000012062009&page=1

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