(2009年10月6日 共同通信社)
スウェーデンのカロリンスカ研究所は、
2009年のノーベル医学生理学賞を、
細胞の老化やがん化にかかわる染色体のテロメア構造と
酵素テロメラーゼを発見、
エリザベス・ブラックバーン米カリフォルニア大サンフランシスコ校
教授(60)ら米国の3氏に贈ると発表。
授賞理由は、テロメアとテロメラーゼによる染色体の保護機構の発見。
他2氏は、キャロル・グライダー米ジョンズ・ホプキンズ大教授(48)、
ジャック・ショスタク米ハーバード大教授(56)。
ブラックバーン、グライダー両氏は女性で、
自然科学3賞で女性2人が同時に受賞するのは初めて。
テロメアとは、染色体の末端にあり、塩基配列を繰り返している部分。
染色体は、細胞分裂のたびに短くなるが、
ブラックバーン氏とショスタク氏は、原生動物や酵母を用いた実験で
テロメアが染色体の端を保護していることを発見、1982年に発表。
ブラックバーン氏の研究室の大学院生だったグライダー氏は84年、
分裂の際に短くなるテロメアを継ぎ足して
長さを元に戻す酵素テロメラーゼを発見。
3氏は実験で、この酵素がないとテロメアの長さが戻らず、
細胞の寿命が短くなることや、逆にこの酵素を働かせると
寿命が延びることを実証。
テロメアの長さが、細胞や生体の老化を決める要素の
一つであることを突き止めた。
活発に細胞分裂するがん細胞では、
この酵素が盛んにつくられており、がん治療の標的に。
血液の難病、再生不良性貧血などにもかかわっており、
臨床への影響も大きい。
山中伸弥・京都大教授が開発した万能細胞の
人工多能性幹細胞(iPS細胞)でも、テロメラーゼが
活性化しているのが判明、再生医療の発展に役立つ可能性。
授賞式は、12月10日にストックホルムで開かれ、
賞金1千万クローナ(約1億2800万円)を3氏で分ける。
▽テロメア
生物の細胞の中にある染色体の両端で、
同じパターンの塩基配列が繰り返されている部分で、
染色体の端がほぐれないように保護する役割を持つ。
細胞が分裂するたびに短くなり、短くなりすぎた細胞は
分裂できなくなって死ぬことから、細胞分裂の「回数券」に
例えられることも。
際限なく分裂を続けるがん細胞などでは、
テロメアを継ぎ足す酵素「テロメラーゼ」が働いている。
老化やがんに密接に関係、多くの研究が進められている。
◆エリザベス・ブラックバーン氏
オーストラリア生まれ、60歳。
英ケンブリッジ大で博士号を取得。
90年、米カリフォルニア大サンフランシスコ校教授。
99年度、慶応医学賞、06年、ラスカー賞受賞。生物学、生理学。
◆キャロル・グライダー氏
米国生まれ、48歳。米カリフォルニア大でブラックバーン氏に
師事し、博士号を取得。97年、米ジョンズ・ホプキンズ大教授。
06年、ラスカー賞受賞。分子生物学、遺伝学。
◆ジャック・ショスタク氏
ロンドン生まれ、56歳。米コーネル大で博士号取得。
米ハーバード大教授。06年にラスカー賞受賞。遺伝学。
▽がんや老化の研究に功績
石川冬木・京都大教授(テロメア研究)の話
テロメアとテロメラーゼは、がん細胞や生殖細胞、老化などと
関連が深く、ノーベル賞にふさわしい成果。
がん細胞では、テロメラーゼが活発に働いているため、
薬で働きを止めてがんの増殖を抑えたり、
老化の症状を和らげたりする研究が進んでおり、成果が期待。
iPS細胞でも、テロメラーゼの果たす役割が大きい。
ブラックバーンさんは、テロメア研究の大御所。
多くの弟子がいて、スケールが大きい研究者。
グライダーさんはその教え子で、若いころから頭角を現していた。
大量の細胞から酵素を集めるなど、根気のいる作業を担当。
ショスタクさんは、テロメアの働きが明らかになる前から
仮説を立て、この分野の理論を構築。
▽再生医療分野でも注目
松浦彰・千葉大教授(分子細胞生物学)の話
3人は、テロメア研究の先駆けとして大きな成果を挙げ、
遅かれ早かれ受賞すると考えられていた。
再生医療の分野でも、テロメアは注目。
iPS細胞も、テロメアが伸びている。
幹細胞で、テロメアがどう制御されているかが分かると、
より効率的に幹細胞を作ることができるかもしれない。
この分野は、先駆者がブラックバーンさんら女性のためか、
研究者に女性が多く、学会でも前の方の席は女性で占められている。
http://www.m3.com/news/GENERAL/2009/10/6/108712/
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