2009年12月13日日曜日

僧侶に学ぶ業務のヒント

(日経 12月4日)

日々の業務の忙しさが影響し、気持ちにゆとりを失う
ビジネスパースンは多い。
平常心を保って規則正しく生活することが求められる
僧侶の日常から、何か学べるものはないか?
ビジネス経験もある若手僧侶と、法話の経験が豊富な
ベテラン僧侶を取材。

東京・浅草の緑泉寺で副住職を務める青江覚峰さん(32)は、
米国留学で経営学修士(MBA)を取得、現地で起業をした経験。
寺の住職である父を補佐しながら、日常業務をこなしていくうち、
「1日の仕事のほとんどを午後3時までに仕上げる」
習慣を身につけた。
その秘訣は早朝にある。

平日の午前7時。
多くのビジネスパーソンが身支度をしているころ、
青江さんは机に向かい、檀家へのお礼状を書いたり、
寺で開くイベントの企画を考えたりしている。
「誰にも邪魔されずに仕事ができる時間帯を探したら、こうなった」

寺院は訪問客が多い。
檀家だけでなく、観光客や散歩がてらにふらりと立ち寄る
近所の人などが入れ代わり立ち代わりやって来る。
僧侶になったばかりの20代前半のころ、
訪問客への応対に手間取り、仕事のペースをつかめなかった。

どうすればよいのかと対策を考えるうちに、
訪問客が午前10時~午後3時に集中していることに気がついた。
その前に重要な仕事を済ませておけば、
午後は手紙のあて名書きや庭の掃除など、
中断されても再開しやすい仕事だけになり、
訪問客にゆとりを持って接することができる。

気持ちに余裕があるので会話も弾み、
お寺の運営方針を伝えられる。
檀家や参詣客が、お寺のことをどのように考えているのか
意見を聞くこともある。

早朝に実力を発揮するには、工夫が要る。
「起床した直後は、大抵の人は頭がさえていない」
起床から2時間ほど経過する間に、集中力を高めることがコツ。

青江さんをはじめとする僧侶は、午前5時前後に起床し、
「朝のお勤め」として読経、その後に掃除するのが一般的。
15~30分にわたる読経は身体を目覚めさせる効果があり、
短時間で終わらせる掃除には集中力を高める効果がある。
7時に仕事を始めるころ、「エンジン全開」の状態に。

青江さんは、僧侶以外の人にもできる朝の習慣として、
「15分程度、書物を音読してみるとよい」と提案。
掃除など単純作業を短時間はさんで集中力を醸成し、
午前中に2時間ほど頭を使う仕事に臨めばよい。

青江さんは、僧侶らが宗派の枠を超えて、仏教をPRするための
ウェブサイト「彼岸寺」の運営にも携わっている。
本業以外の仕事もこなすうえで、お寺の暮らしで培った
時間配分のノウハウが役立っている。

室町時代の東山文化の象徴である銀閣寺。
その近くの古寺の法然院は、
「法話を毎週聞けるお寺」として知られている。
貫主の梶田真章さん(53)は、コンサートや落語会などの
会場として寺院を提供、イベントの合間に法話することも。
梶田さんは、「わかりやすく」だけでなく、「じっくり」も心がけている。

梶田さんは、「法話は、ある意味でビジネス会話の対極にある
法話では、語りかける相手に、
「今日教えたことは、今すぐ分からなくてもよい」という態度を貫く。
ビジネスの会話では、「(商談を成立させるため)今すぐにでも
理解してもらいたいという気持ちが先行する」

製品・サービスのプレゼンテーションには、わかりやすさとともに、
スピードも重視。
忙しい顧客に対し、無駄を省いて説明しなければならない。

梶田さんは、「営業ではそれでよいのかもしれないが、
社内で部下などに教え諭す場合は、法話のような態度が必要」
教育の場面では、部下が自分の力で理解できるまで
じっくり待つ「ゆとり」も上司には必要。

梶田さんは、法話の要件として、
(1)すぐに理解することを求めない、
(2)理路整然と具体的に語る、
(3)何度も繰り返す——の3点。

因果(物事の結果と理由)という概念を重視する仏教は、
本来論理的な思想。
理屈ばかりでは、聞いている人に伝わりにくいので、
僧侶は身の回りで起きたできごとなどを話題に取り入れ、
具体的に語ることを心がけてきた。

何度も繰り返すというのは、一言一句同じことを
唱えるということではない。
言葉や話題を変えながら、同じメッセージを毎回伝えるという意味。
すぐに理解してくれないことに腹を立てず、
辛抱強く反復することが、長い目でみると効果を生む。

梶田さんは、法話を終えると、必ず人の質問に答える。
法話の分かりにくかった部分を指摘してもらい、
次回の法話で改善するため。

法話と同様、朝礼やグループミーティングで話す際、
上司は時間の許す限り質問に答えるべきだと、梶田さんは説く。
梶田さんは、法話の中身を考える時、
出てきそうな質問も想定しながら組み立てる。

法話には、修行の世界にこもっている僧侶が
俗世間の人々の考え方や感じ方を布教に取り入れるために
問答したという意味合いも。
1000年近い伝統がある法話の技術に、
ビジネスパースンが学べる要素は多い。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/bizskill/biz091203_3.html

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