2009年12月16日水曜日

リチウムイオンよ、お前もか

(日経 2009-12-10)

電気自動車やプラグインハイブリッド車への期待が
盛り上がる中、中核部品である電池にも脚光。
将来を見渡せば、リチウム空気電池など様々な次世代技術が
あるが、ここ数年あるいは10年程度はリチウムイオン電池が
「自動車の電動化」の主役。

このリチウムイオンで、日本企業はしっかり稼げるだろうか?
今の市場動向をみると、不安を感じざるを得ない。
リチウムイオン電池メーカーが追求すべき命題は2つ。

第1に、自動車1台あたり軽く100万円を突破する
電池のコストを急速に低減すること。

通常のガソリンエンジンのコストは、1基20万円程度。
エンジンの代替物である電池も、
それと競争できる水準まで下げるのが待ったなしの課題。

もう1つは、第1の課題とも密接に絡むが、
生産能力の急速な引き上げ。

リチウムイオン電池は、携帯電話やパソコンなどの
電子機器向けなどに普及。
車載用に本格普及が進めば、携帯やパソコンとは
けた違いの量の電池が必要。

ジーエス・ユアサコーポレーションの依田誠社長によると、
「世界のリチウムイオン電池の生産能力を全部かき集めても、
電気自動車50万台分にすぎない」
50万台といえば、世界の自動車販売の1%以下。
電池の生産能力の大幅増強が実現しなければ、
電気自動車の時代はいくら待ってもやってこない。

リチウムイオン電池をめぐるこうした状況は、
半導体のメモリーによく似ている。

メモリー事業の本質は、ごく単純。
需要拡大を先取りして大胆に設備を増強し、同時に
量産効果をフルに発揮して製造原価を大幅に引き下げること。

この種の競争で重要なのは、技術的な優劣よりも、
時機を見定めて、思い切った投資に踏み込む経営者の判断
(あるいは勘)と、それを支える資金力。

日本企業がDRAMをめぐる競争で、韓国のサムスン電子に
負けたのも資金力、財務力の差が大きかった。
過剰プレーヤーの問題を引きずった日本の半導体メーカーは、
技術レベルは高くても、個々の企業の財務基盤は弱体で、
投資競争でサムスンに力負け。

リチウムイオン電池でも、同じ展開にならないか?
日本企業でリチウムイオンを手掛けるのは、
三洋電機やソニー、パナソニックなどの電機メーカー、
GSユアサのような従来型の自動車バッテリーの会社、
最近では米ベンチャーと提携したIHIなどの重工メーカーも参入、
10社前後のプレーヤーがひしめいている。

いくら成長分野だからといって、この数は多すぎないか?
市場の成長性と、当該事業の収益性は似て非なるもの。
いくら市場が伸びても、競争が苛烈なら
参入プレーヤーはもうからない。

「全員負け組」になって、韓国メーカーや中国のBYDといった
新興勢力に漁夫の利をさらわれるパターンが
繰り返される心配はないのか。

三洋電機で2次電池事業を統括する本間充副社長は、
「2次電池市場は、かつて日本企業の独断場で、
10年前には世界シェアの90%を握っていた。
今は、40%まで下がった」と危機感を打ち明ける。

技術が粗削りで、いろいろな試行錯誤が必要な初期の段階で、
数多くのプレーヤーが参入するのは悪い話ではない。
「数打てば当たる」ではないが、いろいろ試す中で
ブレークスルーが生まれるかも。
米シリコンバレーが、持続的にイノベーションを生み出せるのも、
数多くのベンチャー企業が日々試行錯誤を繰り返している。

技術がある程度確立し、競争の焦点が量産投資に移った段階では、
「過剰プレーヤー」は業界全体の足を引っ張りかねない。
日本の電機産業は、この教訓を痛いほど学んだはずなのに、
同じ罠にまた陥ろうとしている。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/ittrend/itt091208.html

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