2010年7月22日木曜日

インサイド:次代の針路 第2部 中学部活の再建策/1

(毎日 7月13日)

中学校の部活動が、試行錯誤を繰り返している。
少子化による部員数の減少に加え、教員の高齢化や指導者不足に
有効な解決策は見えてこないまま。
スポーツに真剣に取り組もうとする中学生たちに、
どんな環境を提供できるのか。
「次代の針路」第2部では各地の現場を訪ね、
中学部活の再建を目指す多様な取り組みを追った。

◇越境通学に地域差

校舎玄関に飾る賞状のみが、3年前の男子バレー部の快挙を物語る。
07年、全日本中学校選手権で初出場、初優勝を果たした
名古屋市立守山北中。
歓喜の胴上げから数カ月後、部員7人の「越境通学」が発覚。
市の教育委員会などによると、3年生5人と2年生2人は転居せずに
住民票だけを異動し、実際には校区外の自宅から通っていた。

顧問の教員は、バレー部OBの保護者らに頼んで、勧誘した
校区外の生徒の住民票をそこに移すことに協力。
この事実が明らかになり、顧問は市教委から戒告処分を受けた。
顧問が定年退職となった後、新たな入部希望者はなく、
やがて廃部の道をたどった。
今春赴任した小倉常義校長は、「全国制覇ならば、入部希望者が
殺到してもおかしくなかったのに」と複雑な思い。

「何も話すことはない。子どもには悪いことをした」
元顧問は、動機について口を閉ざすが、生徒や保護者の意向も
強かったに違いない。
名古屋市は、部活動による校区外通学を認めていない。
市の調査では、別の中学のバスケット部などを含め、
同様の越境通学者が48人。

少子化に伴い、各競技とも部員集めに頭を悩ませるが、
男子バレーの状況も深刻。
95年度、5869校だった日本中学校体育連盟の加盟校は、
昨年度3286校と4割以上も減った。
名古屋市でも、15年ほど前に70校以上あったが、
今年は市内109校中22校。
市は、外部顧問派遣制度などの対策を講じるものの、
減少に歯止めは掛かりそうもない。

文部科学省は07年、部活動を理由とした校区外通学を
認める通知を出した。
最終的な判断は、各自治体の教育委員会に委ねている。
名古屋市が認めないのも、「部活動はあくまで教育活動の一部」と
考えるからで、部活動で学校選びが進むと、
強豪校に生徒が集中し、逆に衰退していく学校が出てくる可能性。
通学の安全確保など、課題も多い。

異なる結論を導いた自治体も。
山口県東部の瀬戸内海に面した光市。
人口約5万人の町が沸いたのは、08年。
市立大和中が、全国中学校駅伝女子で優勝。
選手登録した8人中6人が、近隣の周南市など校区外から
通学していたことが判明。
選手は、親類や知人宅に住民票を移していた。

優勝の前年まで校長を務めた山村進さん(62)は、
アテネ五輪マラソン代表の国近友昭(エスビー食品)らを
中学時代に指導した実績を持ち、地元では名指導者として知られるが、
山村さんは、「こちらから勧誘したことは一度もない」
熱心な指導者の下に選手が集まる構図は、どの地域でも変わりはない。

光市は、「子どもたちを傷つけるわけにはいかない」と、
09年から規則を変更。
校区外通学の条件として新たに部活動を加え、すでに在学していた
大和中の部員も、「特例」として認めた。
小学校時代のクラブチームの仲間と同じ中学校に行きたいという声も多く、
そうした要望にも応えた形。
この2年間で、同市内で部活動を理由に越境したのは7人。
今のところ、過熱している気配はない。
光市教委の担当者は、「大規模な都市なら、移動する人数も多いだろうが、
小さな町だから生徒を救える選択ができた」

全国制覇を遂げた二つの部の、その後の歩みはあまりに対照的。
各学校のバランスを考えて「校区」を重視するのか、
生徒に自由な選択の道を提供するのか。
越境通学の是非は、その地域事情によっても異なってくる。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/news/20100713ddm035050019000c.html

0 件のコメント: