(毎日 7月15日)
東京都渋谷区の松濤地区。
都知事公館や外国人住宅などが並ぶ高級住宅地。
その中に、昨年、創立60周年を迎えた区立松濤中がある。
放課後、グラウンドで十数人の野球部の練習が始まった。
就任3年目の鈴木富樹校長は、
「グラウンドがにぎやかだと、学校にも活気が出てくる」
松濤中は、70年前後は1学年9クラスの大規模校だったが、
ドーナツ化現象とともに、十数年前には全校生徒が
100人を切るまでに減った。
野球部は一度姿を消し、3年前に復活したばかり。
約22万人の中学生が通う都内の公立中。
地方とは違った難しさがある。
都教育庁の調査によると、06年度に都内の公立中で
休廃部になった部活動は331部。
一方、457部が創設。
その理由の3分の2が、「学校事情」。
都教育庁指導部の鯨岡広隆副参事は、
「中学校は、1校当たりの教員が少ないが、
学校数が多いので人事異動が多い。
異動で顧問ができる人がいなくなるケースがある」
顧問が去った学校では、部が消滅し、
異動先で誕生する好ましくない循環だった。
こうした状況に拍車をかけているのが、都内の大半の区で
採用されている「学校選択制」。
校区外の学校にも、本人の希望で通うことが認められているため、
生徒数が変動しやすい。
この対策について、全日本中学校長会で生徒指導部長を務めた
都教職員研修センターの谷合明雄教授は、
一つの部に複数の教員があたる「複数顧問制」を提唱。
忙しい教員にとって、部活動は負担になるが、
それを2人以上で分散させれば、異動によって
指導者がいなくなることを防ぐことができる。
谷合教授は、新宿区内の二つの中学校で11年間校長を務めた時、
複数顧問制を導入。
部活動の増減はなくなり、学校運営も安定した。
谷合教授は、「顧問を頼む時も、一人で見なくていいと言えば頼みやすい。
部活動をなくさないことは、子どもの心の安定につながる」
松濤中野球部の復活は、少年野球をしていた子どもたちの
受け入れ先として、地域からの要望が強かったから。
学校は、6年前に区の英語教育重点校に指定されて、
生徒は増え始めていた。
部の顧問になった浜島浩二教諭(31)に野球の指導経験はなかったが、
甲子園出場経験のある兄の影響などで知識はあった。
9人に満たない部員で、グラウンドの整備から始まった。
今年、野球部では臨時採用にあたる期限付き教員が副顧問、
特別支援学級の男性補助員がコーチになった。
地域の少年野球チームからも協力を受ける。
浜島教諭は、「それまで練習が終わった後に学校の仕事をしていたが、
複数顧問になって負担は軽くなった」
順風満帆に見える野球部の再出発に、心配の種が消えたわけではない。
副顧問やコーチは、採用試験の結果次第では、来年にも学校を変わる。
浜島教諭にも、いずれ異動時期が訪れる。
「外部指導員を含め、いかに人材をつなげていくかが存続のカギ」
と鈴木校長。
部存続に向けた試行錯誤は続いている。
http://mainichi.jp/enta/sports/general/news/20100715ddm035050180000c.html
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