2009年3月14日土曜日

学士力(1)「楽勝科目」なし 4年で卒業47%

(読売 3月4日)

「国際教養人」の養成を強力に進める大学がある。

静かな銀世界に包まれた国際教養大学(秋田市)。
教室のドアを開けた途端、英語でまくしたてる声が聞こえた。

「この像から、古代日本人のどのような思考が読み取れるか」
埴輪のスライドを見せながら、英国人教員が日本人学生に問いかける。
古代の遺物から現代の漫画まで、幅広い文化財を教材に
日本人の死生観などを考えさせる授業。
学生たちは頭をひねりながら、「死への恐怖」、「祈り」などと英語で答える。
別の教室では、英語で近代日本の外交政策の歴史を語る講義に、
日本人学生が必死に耳を傾けた。

日本語で行われる「時事問題を読む」の授業は、
学生数(約730人)の1割強を占める留学生向け。
毎回、日本の新聞を教材。
この日は、豪州や韓国の学生らが、オバマ米大統領の就任演説への
論評の違いを話し合った。

「“地球村の住民”にまず必要なのは、お互いの違いを理解すること」
佐野ひろみ准教授(60)が、こうした授業の狙いを強調。

同大は5年前の開学時、教育目標に、大学名と同じ
「国際教養人の育成」を掲げた。
「何をできるようにするか」を明示する海外の大学を、強く意識したため。
弾力的な組織運営や教育を展開できる全国初の公立大学法人として発足、
次々に斬新な教育手法を打ち出してきた。

日本人対象の授業はすべて英語だが、内容は、2年次まで
日本の歴史や文化、政治、経済をテーマにした教養教育に重きを置く。
「国際人に必要なのは、単なる語学力ではない。
日本人としての自己認識が異文化への敬意を生み、
真のコミュニケーション能力を育てる」と中嶋嶺雄学長(72)。
入学式の式辞で毎回、新渡戸稲造の「武士道」を必読書として紹介。

1学年を100人程度に限定し、少人数教育を徹底。
新入生には、外国人留学生と一緒の寮生活を、全学生に1年間の海外留学を
義務づけ、日常的に異文化が体験できる工夫。

成績評価も厳密。
GPA(各科目の評定の平均値)が、3期連続で一定の成績を下回ると、
退学勧告の対象。
これまで勧告は出ていないが、「楽勝科目はありません。とにかくハード」と女子学生。
1期生のうち、4年間で卒業できたのは47・1%。
この数字が苦笑を裏付ける。

厳しい目は、教員にも向けられている。
専任教員49人(半数は外国人)は全員、3年契約の年俸制。
学期に1回、全員が学部長や同僚教員らの授業参観を受け、
教材の選び方や授業の進め方など、細かくチェックを受ける。
この結果を基にした評価と学生の評価を組み合わせて、
翌年度の年俸が決まる。
評価が基準を満たさず、契約が更新されなかった例は少なくない。

“品質”に対する大学側の姿勢は、卒業生の受け入れ先に信頼感を与えている。
採用担当者がキャンパスに足を運んで入社試験をし、
その場で内定を出す例も。
語学力や交渉力が生かせるとして、海外拠点を持つ商社やメーカーの
注目を集め、昨春卒業の1期生は全員、「希望の就職・進学先に進めた」
(キャリア開発室)。留年した学生も今春、希望通りの進路を選べそう。

受験生や保護者らの認識は、企業ほどには広がっていない。
玄関を入って、すぐに目に飛び込んでくるよう張り出されているのは、
国際教養大が上位にランクされた予備校作成の難易度ランキング。
「まだまだ、偏差値が高いことを強調しなければならない。
新設大学のつらさですよ」。中嶋学長は苦渋をにじませた。

◆GPA(グレード・ポイント・アベレージ)

授業科目ごとの成績評価を数値化し、その平均値が一定の水準を
満たしているかどうかで、進級や卒業の可否を認める制度。
文部科学省の2007年の調査では、全大学の約4割、294校が導入、
必ずしも厳密な成績評価にはなっていない。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090304-OYT8T00197.htm

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