(日経 2009-02-26)
交通事故の未然防止などを目的とした「ITS(高度道路交通システム)」
の公開実証実験が始まった。
官民一体で公道において実施する日本初の大規模実験で、
国内の自動車・電機メーカー約40社に加え、独メーカー3社も参加。
ITSは、日本が世界をリードしているが、
メーカー間の規格争いや所管官庁間の足並みの乱れが指摘。
袋小路に入らないためには、オープンな取り組みが重要。
今回の実証実験は、「ITS—SAFETY2010」と呼ばれ、
内閣官房や関係する4省庁、民間団体のITSジャパンなどで組織する
「ITS推進協議会」が主催。
開会式には、野田聖子IT(情報技術)担当大臣や
豊田章一郎ITSジャパン会長らが出席。
日本科学未来館を起点に、副都心周辺を回る50分コースと、
首都高速道路の新宿線を走る140分コースの2通りで実験。
実験内容は、高速道路での安全運転支援を目的とした「スマートウェイ」、
衝突防止などを狙った「ASV(先進安全自動車)」、
信号の見落としなどを防止する「DSSS(安全運転支援システム)」の3つ。
スマートウェイは、高速道路のETC(自動料金収受システム)に使われる
「DSRC(狭域無線)」技術を使った路車間通信がベース。
ASVはDSRCによる車車間通信、
DSSSは光ビーコンを使った路車間通信技術を使っている。
実験では、様々な無線車載機を搭載した実験車をトヨタ自動車やホンダ、
日産自動車などが約30台提供。
マスコミや自動車関係者など、約300人に試乗。
記者も早速、50分コースを体験。
実験車は公道を走るため、第三者からも一目でわかるように
「ASV」といったロゴを大きく表示し、一部はボディー全体を黄色に塗り替えた。
車内には、実験用に改造されたカーナビゲーションシステムが搭載、
ブレーキを踏まずに交差点に差し掛かると、信号の所在を文字や音で知らせ、
別の実験車が近づいたことをカーナビの地図上に表示。
現行のカーナビシステムに比べ、受信できる情報量が5倍あり、
安全走行に必要な様々な情報を素早く入手。
公道で大規模な実証実験ができたのは、2006年1月に政府が定めた
「IT新改革戦略」に、ITSの推進が初めて盛られた。
自動車メーカーなどで構成する民間団体のITSジャパンを中心に、
実証実験や普及活動を進めてきたが、
新たに官民共同のITS推進協議会を設置。
所管官庁も国土交通省や警察庁、総務省、経済産業省が
別個にITSジャパンに協力してきたのに対し、
新戦略では内閣官房に事務局を置き、4省庁が一体的に協力できる体制。
実証実験や展示会に参加してみると、官民一体とはいうものの、
同床異夢の様相も否めない。
スマートウェイは国交省の道路局、ASVは国交省の自動車交通局、
DSSSは警察庁の交通局が進めてきたプロジェクト。
技術展示が別であり、車載機もそれぞれ別個の装置が載せられ、
実験車の開発コストは1台あたり2000~5000万円。
カーナビ画面も、実験内容が変わるたびに切り替わり、
ドライバーの視点から見ると、縦割り開発の域を出ていない。
自動車メーカーも、実証実験には各社の技術者が手弁当で参加し、
連携体制をとってはいるが、肝心な戦略技術の話になると、秘密主義に。
実験には、メルセデス・ベンツ日本やフォルクスワーゲングループジャパンなども
参加し、企業間の競争を考えれば仕方がない面も。
日本が、ITSの分野で世界標準を勝ち取り、市場をリードするには、
メーカー間の共同技術開発や規格の共通化などももっと進める必要。
ITSにおける国際的な協力活動は、1990年代半ばから始まり、
日本でも97年に横浜、04年に名古屋で世界大会が開かれた。
ITSジャパンなど、各地域の推進団体が持ち回りで開く同大会は
13年には再びアジア地域で開かれる。
大規模実験を臨海副都心で行ったのは、16年のオリンピック招致を狙う
東京都の意向が反映され、公開実験を大規模に行った意義は大きい。
日本では、携帯電話の「ガラパゴス現象」に象徴されるように、
技術や機能を国内メーカー同士が競った結果、
世界の需要とは異なる方向に技術が進化し、
海外市場への販路を失ってしまったという問題。
値段が30万円もする日本の高機能カーナビについても同様。
安全対策が目的のITSも、日本の道路事情を前提に
特殊な技術を開発すれば、ガラパゴス現象をさらに助長しかねない。
政府は03年、小泉政権のもとでITSを推進する理由として、
「12年までに交通事故死者数半減(5000人以下)」という目標。
安倍、福田、麻生政権と続く政治的混迷の中で、
IT政策やITS計画に対する日本政府の取り組みは後退。
今回の実証実験に対する取り組みでも、国交省の腰がひけている印象。
ITSの分野で、日本が世界を本当にリードしていこうというなら、
官民がもっと協力して新技術の開発や標準化などを進めていく必要。
世界需要の急激な落ち込みに苦しむ日本の自動車産業の屋台骨を
強めることにほかならない。
http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/ittrend/itt090225.html
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