2009年11月30日月曜日

小国デンマークからの産業革命・下

(日経 2009-11-23)

「自転車に気をつけて!」——。
主要な道路に、車道と歩道の間に“自転車道”が設けられ、
多くの市民が通勤・通学の足に利用。
自転車が増えたのは、高い取得税がかけられた自動車が高根の花。

政策誘導で、ガソリンを大量消費するクルマ社会から転換を加速。
同時に、電気自動車を核に据えた次世代インフラ作りも。

世界最高とされるデンマークの自動車取得税。
ガソリン車の購入に、180%もの税金。
100万円の軽自動車でも、購入価格は280万円。
取得税が、ゼロになる車種がある。
ガソリンを使わない電気自動車。

デンマーク3位のレンタカーチェーン、SIXTはこの優遇を生かし、
本格的な電気自動車レンタルを始めた。
シトロエンの小型ガソリン車を購入、エンジンを取り出し、
蓄電池を組み入れるなどの改造をし、22台を集めた。
自動車本体9000ユーロに対し、改造費用は2万ユーロ。
年内には、100台近くに増やす。

電気自動車があっても、蓄電池の充電拠点がなければ動かない。
SIXTは自費で、空港や有名ホテル、市役所など10カ所近くに、
自社のロゴを記した充電ステーションを設けた。
初期投資は、車両代を含め総額300万ユーロ。
12月までにホテル60カ所、主要な駐車場200カ所に充電器を設置。

SIXTデンマークのオーナー、ヘンリック・イサクセン氏は、
「他社は、インフラができるのを待っている。
インフラを先に整備してしまえば、追随した他社から
『使用料』を受け取れる」と、インフラ整備の先手必勝を説く。

これだけの規模での電気自動車の商業利用は、世界でも例がない。
レンタル料は、ガソリン車より28%高いが、物珍しさもあり、
連日ほぼ電気自動車は出ずっぱり。

イサクセン代表は、企業向けの社用車として、
改造電気自動車をリースするビジネスも。
最初の2週間で、数百台の受注を達成。
2010年、少なくても1500台の受注を見込む。
自動車取得税のインセンティブが、「改造車」レベルでしか
製品供給体制が整っていない電気自動車の急速な利用拡大を呼ぶ。
「バルセロナ、ニューヨーク、ブエノスアイレスでもビジネスを始めたい」

コペンハーゲンでのモデルをひっさげ、イサクセン氏の目は海外にも。
電気自動車の利用が増えれば、電気の利用が増える。
必要な電気を、デンマークは風力発電など再生可能エネルギーで。

再生可能エネルギーと電気自動車——。
次世代の新たなインフラをつなぎ、効率よく運用する仕組み作りが、
1年半前からバルト海に浮かぶ孤島を舞台に模索。
バルト海に浮かぶボーンホルム島は、人口5万人弱の観光島。

強い風が安定して吹く地形を生かし、必要電力の33%を風力発電で。
スウェーデンと送電線でつながり、島内の電力需要より多く
風力発電した場合、これまで送電線を通じて国外に売っていた。
化石燃料の消費を減らせる自然エネルギーは、自国で使いたい。

電気自動車が搭載する蓄電池内に余った電気をため置き、
需給の調整に使おうとする構想が生まれた。
実験に使うため、11年までに島内で郵便配達車や
福祉サービス用車両として、50台の電気自動車を導入。

実験には、近代文明の礎を築いた発明王にあやかり、
「エジソンプロジェクト」
内容決定、参加企業集めなど主導するのは、
デンマーク工科大学のヤコブ・オスターガード教授と
デンマークエネルギー協会のラス・アガードCEO。
30~40代の若い2人の頭に、デンマーク国内の技術蓄積だけで、
次世代技術を作り出そうという発想は最初からない。

「参加する企業間で、得られた知見を自由に使える協定を結ぶ。
参加者全員に、共通の利益が行き渡る仕組みにすれば、
小国の実験でも技術を持つ企業をひき付け、
最新技術の提供も受けられる」(オスターガード教授)。

デンマークの呼びかけに、米IBM、独シーメンスなど
世界的な大手企業が手を挙げ、国内企業と一緒に要素技術を提供。
実験参加者間で知見は共有されるが、外部には非公開。
外国技術も融合したメード・イン・ダニッシュの標準規格を作り、
次世代送電網作りで国の競争力につなげたい。

アガード氏は、日本企業にも期待。
「欧州では、日本企業はモノを売ることに熱心だが、
新技術を開発するためのオープンイノベーションに、
もっと興味を持ってほしい」。

電気自動車の製造、販売を始めた三菱自動車の参加を
呼びかけていた。
デンマーク大使館の中島健祐氏は、「北欧デザインだけでなく、
先進技術の発信拠点としてのデンマークを、
もっと日本企業に知ってもらいたい」

日本で「これから」とされる動きが、現実に進むデンマーク。
低炭素化を発端とする「21世紀の産業革命」は、
もう始まっているのかも知れない。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/tanso/tan091120.html

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