2009年12月1日火曜日

特集 高齢化と歯の健康シンポジウム 歯の健康は体の健康

(2009年11月21日 毎日新聞社)

「高齢化と歯の健康シンポジウム」を開催
タレントの森脇健児氏、大阪歯科大学の岡崎定司教授、
歯科医師で大阪インプラント再生医療センター長の河村達也氏。
健康な歯の大切さや最新の歯科治療などについて話し合った。

◇定期的なメンテナンスを--河村達也氏

老化を遅らせ、老化による体の変化を補おうというのが、
抗加齢(アンチエイジング)の概念。
大切な歯を失ってしまえば、咀嚼、審美、発音障害が起こり、
生活の質の低下を招くことは明らか。
入れ歯やブリッジに代わる最新の補綴治療法である
インプラント治療についてお話ししたい。

最新のインプラント治療は、純チタン製の人工歯根を
あごの骨に埋め込む。
インプラントの上に、「アバットメント」という歯茎を貫通する
連結部を接続し、その上に人工歯をかぶせる。
本来の歯に近い形で、歯を再生する治療法。

インプラントは直接、あごの骨と接合するため、
入れ歯にみられる痛みや違和感がなく、
自分の歯と同じような感覚で使え、周りの歯を削る必要もない。
失われた部分だけを再生させるという点において、
まさしくアンチエイジング治療。

便利な面ばかりでもない。
インプラント治療は、体の中に金属製のネジを埋め込むという
「人工臓器移植」の分野に含まれる高度な医療技術。
最終的に、人工歯が最も理想的となるように
十分な術前診査を行い、慎重な外科手術を要する。
安全な施術のためには、経験豊富な専門医による治療、
専門設備の整った施設での受診、信頼できる
インプラントメーカーの材料・器具の使用が欠かせない。

インプラント治療の第1ステップは、術前診査。
従来の石こう模型やレントゲン診査に加え、
今ではCT(コンピューター断層撮影)による診査が重要。
CTのデータを利用し、三次元的な術前シミュレーションも可能。
インプラント治療の成否は、術前診査に基づく治療設計にかかる。
糖尿病、高血圧、肝機能障害など、
全身疾患の有無も重要なチェックポイント。

次のステップは、インプラントをあごの骨に埋め込む外科処置。
インプラントと骨がしっかり結合するのに、下あごで3カ月、
上あごで半年を要する。
骨の量が足りなくてインプラントをあきらめる人も少なくなかったが、
現在では特殊な方法で骨を再生させることも可能。

最後は人工歯の製作。
人工歯の取り付け方法には、ネジ固定方式とセメント固定方式があり、
メンテナンス性や長期にわたる骨の安定を考えると、
ネジ固定方式の方が有利。

インプラント治療で取り戻した歯を、ずっと長く使い続けるため、
定期的なメンテナンスが欠かせない。
自分の歯が歯周病になるように、インプラントも
インプラント周囲炎という病気に。
歯ぎしりのひどい人は、マウスピースの着用や
定期的なかみ合わせの調整が必要。

◇難点は「き・む・ず・か・し・い」--岡崎定司氏

現代人は、物をかまなくなった。
弥生人は1回の食事に53分間かけ、平均3990回かんでいた。
現代人の食事時間は11分、620回しかかまない。

かむことの効用は、食べ物を咀嚼し、唾液分泌を促し、
大脳に刺激を与え、血液循環を良くすること。
思考意欲と集中力が高まり、意識レベルが安定化。
3分間ガムをかみ続け、脳の血流量が10~20%アップした。

人間の歯の数は、50歳代から減り始め、
75歳以上では10本弱しか残らない。
20本近くが抜けてしまったことに。
欠損した歯を補うことを「補綴治療」。
治療方法は、
(1)クラウン・ブリッジ、
(2)義歯(入れ歯)、
(3)人工歯根を埋め込むインプラント、
に大別できるが、私の専門である入れ歯の話をしたい。

日本の入れ歯人口は3000万人。
入れ歯は1500年ごろ、日本で最初に作られた。
木彫りで、歯は大理石や貝殻、動物の歯、時には人間の歯を使った。

入れ歯の難点は、「きむずかしい」と例えられる。
▽気(き)持ち悪い
▽虫(むし)歯になる
▽ずれる
▽欠(か)ける
▽しっかり手入れが必要
▽痛(いた)い--である。

1本だけ歯が抜けた時、隣の歯が10年後まで“生存”している
確率を調べたところ、ブリッジにした場合は92%、
無処置でも81%残っていたが、入れ歯は56%と生存率が低い。
入れ歯を支える隣の歯は、どうしても弱くなりやすい。
歯が抜けると、歯の周囲の歯槽骨が吸収され、
入れ歯が徐々に合わなくなり、定期的な調整が必要。

入れ歯の不具合を放っておくと、咀嚼力が低下し、偏食を招き、
肩凝りや腰痛の原因。
毎日使用する道具の一つと考え、歯ブラシや義歯洗浄剤などを使い、
入れ歯を清潔に保つことも大切。

入れ歯が合わなくなったら放っておかず、調整や新調をすることで、
常に気持ちよく使える状態を維持すべき。

◇かかりつけ医を見つけて--森脇健児氏

全国47都道府県を走るバラエティー番組「走る男2」に出演。
収録のあるなしにかかわらず、毎日15-20キロ走っている。
今朝も、京都・嵐山を走ってきた。
走ると食事がおいしく感じられ、健康に。

食事を取ったり、スポーツで歯を食いしばったり。
歯の健康は、体の健康にもつながる。
健康はお金で買えない、かけがえのないものだと痛感。

走るきっかけとなったのは、TBS系で春秋に放映される
「オールスター感謝祭」への出演。
「赤坂5丁目ミニマラソン」という名物コーナーがあり、
03年秋に初めて参加。
TBS本社のある東京・赤坂を約4キロ走り、
心臓破りの坂も駆け上がらなくてはいけない。
初挑戦でいきなり優勝。
思わぬ賞金も得て、走る喜びを知った。

沿道には、男性アイドルを応援する女性の黄色い声が響くが、
僕にはない(笑い)。
ある年、「森脇さん、いったれや」と、どすの利いた声援を受けた。
丸刈りのごついおっちゃん軍団(笑い)。
慰問に訪れた刑務所から出所してきた人かな、と思い、うれしくなった。

僕は、昔から歯が悪かった。
疲れると歯痛になり、片頭痛を伴うことも。
「歯ぎしりが原因では?」と歯科医に指摘、
マウスピースを着けて寝るようになってから調子がよく、
今は片時も離すことができない。
歯の健康は、体全体の健康。
歯の健康を保つためには何でも相談でき、的確な治療、
アドバイスを受けられる、かかりつけの歯科医を持つことをお勧め。
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◆パネルディスカッションから

--失った歯の数に適した治療法はあるか?

河村 ブリッジを入れる場合、前後に歯が残っていないと不可能。
入れ歯も、総入れ歯でない限り、バネをかける歯が残っていないと
装着できない。
インプラント治療は、失った歯の本数を選ばない。

--どのくらいのペースで定期健診を行えばよいか?

岡崎 歯石の除去なら、半年から1年に1回程度。
入れ歯でも同様に、歯茎との適合やかみ合わせのチェックを
定期的に受けるべき。

--睡眠中は入れ歯を外した方がいい?

岡崎 その人の環境にもよるが、きちんと洗浄する方が大切。

--インプラント治療の注意点は?

河村 治療の「安全性」と長期使用に耐える「安定性」が最も大事。
適切に行われたインプラント手術では96%程度の成功率が報告、
10年以上の使用も可能。
私が治療を始めた20年前に比べ、インプラント治療は著しく進歩、
その半面、治療内容も高度化し、トラブルも目立つ。
骨が少ないケースでは、専門医に相談することが大切。

--近くに専門医がいない時は?

河村 インプラントを専門的に取り扱っていない診療所でも、
専門医へCT撮影やインプラントの埋め込み手術、
骨造成などを依頼し、人工歯の作製を近隣の歯科医院で行う
「診診連携」も増えている。
まずは、かかりつけ歯科医に相談を。

--入れ歯に向いている人、インプラントに向いている人はどんな人?
インプラントは自費診療だが、保険診療が適用される見込みは?

河村 優劣ではなく、患者が何を望んでいるかの違い。
ゴールを入れ歯に置くなら、自分の歯を最後まで大事に使うべき。
ゴールをインプラント治療なら、骨がやせ過ぎてしまうまでに実施。
健康保険に関しては、残念ながら当面、適用される状況にない。

森脇 どちらにしても、納得いく治療を受けることが必要。
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◇かわむら・たつや

1984年、岐阜歯科大学(現朝日大学歯学部)卒、
89年大阪歯科大学大学院修了。
93年、大阪市中央区高麗橋に河村歯科医院を開院、
99年、同院内に「大阪インプラント再生医療センター」を設立。
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◇おかざき・じょうじ

1979年、大阪歯科大学卒、84年同大学院修了。
同助手、助教授、英ウェールズ大学歯学部客員上級研究員など、
08年、大阪歯科大学欠損歯列補綴咬合学講座教授。
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◇もりわき・けんじ

1967年生まれ。高校3年の時にタレントデビュー。
「笑っていいとも」、「夢がMORIMORI」など多数出演。
現在、独立UHF局で「走る男2」が好調。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2009/11/24/111707/

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