2009年11月29日日曜日

服薬ほとんど影響なし 母乳を知る:下

(2009年11月20日 毎日新聞社)

静岡県に住み、2児を育てる主婦(29)は、
風邪をひいて近所のかかりつけの内科医を受診。
生後5カ月の長女に授乳中であることを告げると、
医師に、「薬は飲んでもいいけど、おっぱいはやめてください」

長女は完全母乳で育てていて、離乳食も始めていなかった。
「38度の発熱があり、早く治したいけれど、
おっぱいは簡単にはやめたくない。困りました」
悩んだあげく、出産した産科医院に電話で相談。
薬の名前を伝えて調べてもらうと、
赤ちゃんに問題のない薬だと分かった。
授乳しながら、処方された4日分をすべて服用し順調に回復。

長男(3)の授乳中も、似たような経験が何度かあった。
主婦は、「授乳中と言うと、医師に嫌な顔をされたり、
やめるよう遠回しに促されることもあった」

授乳育児中の急な病気やけが、歯の治療や既往症で、
薬の服用が必要になったとき、悩む母親は多い。
薬の添付文書で、授乳中は投与を避けるか、
授乳を中止するよう書いてあることが多く、
医師に授乳をやめるよう勧められることも。

石井第一産科婦人科クリニック(浜松市)の石井広重院長は、
「確かに、母親が飲んだほとんどの薬は母乳に移行するが、
微々たる量で赤ちゃんに影響しないことがほとんど。
母乳を中止する不利益の方が大きい

母乳は、乳房にある乳腺で、母親の血液から作られる。
母親が薬を飲むと、その成分が血液に乗って乳腺に届く。
原則的に、母乳に分泌される薬は、母親が飲んだ量の1%以下。
一般的に、母親が飲んだ量の10%以下なら、
乳児には安全と考えられている。
石井さんは、「母親に処方されるほとんどの薬は、
赤ちゃんが病気になったときにも使われる。
赤ちゃんへの処方量より、母乳への分泌量は格段に少ない」

抗がん剤や代謝拮抗薬、放射性医薬品など、
蓄積性があったり、毒性が強いなどの理由で、
授乳中に服用してはいけない薬もわずかにある。
半減期が短い診断用薬剤など、一時的に授乳を中断し、
その後再開できるものも。

近年の研究で、母乳は優れた免疫成分と個々の赤ちゃんに
最適の栄養を含み、母子間の愛情をはぐくむうえでも
重要な役割を果たす。
乳がん、子宮体がん、卵巣がんの罹患率が低下するなど、
母親にとっても多くのメリットがある。
授乳を急にやめると、母親の胸が張って乳腺炎につながることも。

石井さんは、「医師は、薬をやめるデメリットを理解していても、
授乳をやめるデメリットは理解していないことが多い


実際の症例では、個々の症状や体質によって、判断が異なる。
医師に相談するとき、「母乳を続けたい」という希望をはっきりと
伝えることや、母乳育児に理解のある医師を選ぶことも大切。

世界保健機関(WHO)とユニセフは、
母子同室など母乳育児の環境を整えた産科施設を
「赤ちゃんにやさしい病院(BFH)」として認定、
「日本母乳の会」が、国内のBFH61施設をホームページ
http://www.bonyuweb.com/)で紹介。

石井さんは、妊娠中と授乳中それぞれの薬の使い方について、
国内外の文献やデータベースを調べた内容を小冊子に。
クリニックで出産した母親に渡し、薬が必要なとき
主治医に見せるよう勧めている。
1冊200円。問い合わせは同クリニック(電話053・586・6166)。

国立成育医療センター内の「妊娠と薬情報センター」
http://www.ncchd.go.jp/kusuri/index.html)に、
「授乳と薬について」のコーナーを設け、授乳中でも通常安心して
服用できる薬と使用できない薬の代表例を一覧で紹介。
……………………………………………………………………………
◆授乳中に使用してはいけない薬剤の代表例(抗がん剤を除く)

アミオダロン    強心薬、抗不整脈薬、抗狭心症薬(アンカロン)
エルゴタミン    片頭痛治療薬(カフェルゴット)
ダナゾール    排卵誘発薬、子宮内膜症治療薬など(ボンゾール)
ダントロレン    抗めまい薬、筋緊張緩和薬など(ダントリウム)
ネビラピン     抗ウイルス薬(ビラミューン)
バルガンシクロビル 抗ウイルス薬(バリキサ)
ミコフェノール酸  抗リウマチ薬、免疫
モフェチル     抑制薬(セルセプト)
メトロニダゾール 抗真菌薬、抗原虫薬、駆虫薬(フラジール)
モルヒネ(同)   麻薬
ラミブジン     抗ウイルス薬(エピビル)
 ※国立成育医療センター「妊娠と薬情報センター」ホームページより抜粋

http://www.m3.com/news/GENERAL/2009/11/20/111607/

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