2009年12月7日月曜日

乾電池で動く「マイクロ人工筋肉」

(日経 2009-12-04)

コピー用紙より薄いフィルムに乾電池をつなぐと、めくれ上がる。
高分子材料の新機能開拓と応用研究を手掛ける
イーメックス(瀬和信吾社長)は、モーターも歯車も無くても
動く樹脂フィルムを開発。
駆動装置の新しい動力源として、カメラ用オートフォーカスなどへの
利用を目指している。

開発したのは、広さが最大A4サイズ、厚さが最小25マイクロメートルの
一見、何の変哲も無いフィルム。
乾電池2本(3ボルト)から引き出した配線が、
両面に触れると生き物のように動く。
サンプルとして幅5ミリメートル、長さ2センチメートルに切り取った
付せん形のフィルムは、電圧の向きをスイッチで周期的で
切り替えると、魚のヒレのようになる。

「なぜ動くのか」、「何に使うのか」。
動く仕組みはややこしいので後回しにし、
まずは同社が考えている使い道から紹介。

「実は、既に携帯電話の部品メーカーとオートフォーカス(AF)
モジュールを試作した」と、フィルム開発を担当した一人の
伊東謙吾研究員。
現在の携帯電話用デジタルカメラには、AFモジュールに
スピーカーの原理を応用したボイスコイルモーターと呼ぶ
駆動装置が組み込まれている。
磁力でコイルを振動。

コイルに代えて、新開発のフィルムを使ったことで、
AFモジュールの構造をさらに単純に。
同程度の性能が得られた。
「AFモジュールの価格を、3分の1以下にできるのでは」と、
伊東研究員は予想。
「AFより大きく動かすズームレンズにも挑戦したい」(伊東研究員)

では、どうしてこんな薄いフィルムが乾電池で動くのか?
フィルムの断面を見ると、樹脂の上下を厚さが
約10分の1の金の皮膜が覆っている。
皮膜で挟まれた部分に動くミソがある。
ここは、フッ素系イオン交換樹脂の中に、
4級アンモニウム塩とリチウムの陽イオンが溶けた
ポリエチレングリコール(PEG)が染み込んでいる。

両面の金被膜に電極をつなぐ。
電圧を与えると、負極側に陽イオンが移動する。
それに引きずられて、溶媒のPEGも動く。
負極側のPEGの分量が増えて膨張するので、
フィルムは正極側に曲がる仕組み。

電気化学の基本的な原理を利用しているだけなので、
中高生でも作れるように思える。
「専用の電解液の開発、金皮膜の作り方、電気に対する
感度を高めるなど、ここまで足かけ5年かかった」と伊東研究員。

フィルムは量産も可能。
広幅にして、連続生産してロール状にする。
厚さや感度など別に反物のように棚に入れ、
「10尺ちょうだい」といった注文に応じられるようになる。
精密な切断技術を使えば、幅が1ミリメートル以下の糸状や、
複雑な形にも加工できる。
工夫によっていろんなものを動かせる。

伊東研究員らは、このフィルムを「マイクロ人工筋肉」と呼ぶ。
人体に直接埋め込むことは難しいが、手術用機器には使える。
フィルムを積層すれば力は増すので、
介護用のパワーアシストや医療以外への応用も期待。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/techno/tec091202.html

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