2011年7月6日水曜日

震災後ストレス対策、これからが正念場

(日経ヘルス 2011年6月17日)

東日本大震災の発生から3カ月が経過し、被災地も少しずつ
落ち着きを取り戻しつつある。
大正大学准教授で、海上保安庁惨事ストレス対策アドバイザーを務める
廣川進氏は、「被災者や救援活動に当たった人たちの自殺が、
これから増える可能性が高い」と危惧。

被災地に出向き、海保職員のストレスチェックやカウンセリングに
携わった廣川氏に、今後のメンタルヘルス対策について聞いた。

――そろそろ、被災者の気持ちも落ち着くのでは?

廣川:地震・津波のような災害や事故現場で、悲惨な光景を目撃したり、
自分の職責を果たせなかったと思うことから生じるストレスを、
「惨事ストレス」と言う。
不眠や悪夢、頭痛や血圧の上昇といった身体の反応、
恐怖感・不安感などが表れる。
1カ月程度で元の状態に戻れば、一過性の正常な反応として、
あまり気にする必要はない。

――1カ月以上続く場合は?

廣川:PTSD(心的外傷後ストレス障害)となった可能性があり、治療が必要。
被災者であれば、自分が生き残ったことへの罪悪感から、
救助活動に従事した人の場合は無力感などから、
いずれも自責の念を抱き、自殺のリスクが高まる。
PTSDとうつ病は、近い関係にある。
飲酒で気を紛らわせようとしたり、仮設住宅へ移って
一人暮らしになったりすればなおさら。

――今のところ、被災地で自殺者が増えたという話は聞かない。

廣川:大災害の直後には、自殺者は増えない。
半年後ぐらいから増え、この冬は要注意。
東北の人はがまん強いとか、不平不満を口にしないとか言われるが、
これはストレスを発散できないということ。
今回の惨事ストレスは強烈で、危険性はなおさら。
大都市部に比べ、精神科医の敷居は高いし、方言が通じない人には
自分の気持ちを話したくないと思うから、
適切な治療を受けにくいという側面も。

――今後、復興が順調に進めば、自殺者増加のリスクは少なくなるのでは?

廣川:そうはいえない。
復興の過程において、被災者の間で格差がつく。
就職が決まり、家を建て直す人が出る一方、
収入もなく、避難所暮らしを続けざるを得ない人もいる。
後者は、「置き去りにされた」、「世間から忘れられた」という
ネガティブな感情を抱き、自殺に追い込まれかねない。

――救援のために働いた人のメンタルヘルスも心配。

廣川:私も、被災地に派遣された自衛隊員、地元の消防団員、
自治体職員らの心理状態を心配。
特に地元の救援者は、悲惨な現場を目にしているのに加え、
自宅が津波で流されたり家族が被災するなど、
二重に惨事ストレスを被っている。
PTSDの発症率は5~10%、10万人以上派遣された自衛隊員から
何人PTSD発症者が出るかを考えると暗然。
これまで遺体を見た経験も多くはない。

――こうした人たちに、どのような対策が必要か?

廣川:ストレスが高い状態で長時間働き続けると、
脳や心臓の疾患で過労死する危険性が高まる。
被災地の会社員や公務員に、過労死が出始めた。
それを防ぐには、体全体のチェックが大切。
会社などが実施する健康診断をきちんと受診し、
「要注意」の項目があったら、日頃は放置している人も、
今回だけは精密検査を受けること。
会社側も、3月以降の延べ労働時間を把握したり、
3、4月の勤務時間がどうだったかを確認したりして、
実態を踏まえた綿密な労働時間管理をし、
必要に応じてまとまった休暇を取らせるべき。

――部下の心の不調を見抜くポイントは?

廣川:管理職の人は、「口数が少なくなった」、「昼間ぼんやりしている」
といった変化が、部下に表れていないか気に留めてほしい。
就寝時間や起床時間を尋ねてみるのもいい。
食事がきちんと取れているかどうかも、重要なバロメーター。
量だけでなく、おいしく感じたかどうかが肝心。
自分を責めるような言葉を口にしないか、気をつけてください。

――新聞やテレビで震災を“目撃”した人たちは大丈夫か?

廣川:阪神大震災は、発生したのが冬の早朝で辺りがまだ暗く、
大半が建物の倒壊による圧死や窒息死。
東日本大震災は昼間に発生し、津波が繰り返し襲ってくる様子が
鮮明な画像で日本全国に流れた。
被災者でなくても、ナイーブな人は影響を受け、
体が揺れる感じがしたり、不安な気持ちになったり。
こうした人は、ゆっくり休息する、好きなことを思い切り楽しむなど、
自分なりの気分転換をしてみよう。
自分の部下にこういう人がいたら、管理職はそのような症状が出ても
不思議はないと話し、安心感を与えるように。
症状が2週間以上続くようだったら、かかりつけの医師を受診するよう
勧めていただきたい。

――東日本大震災による惨事ストレスの影響は、いつごろまで続くか?

廣川:発生から1年では収まらない。
通常は発生時のストレスが最も大きいが、今回はその後も大きな余震が
何度かあったり、福島第一原発の事故が収束していなかったりと、
今なお現在進行中の惨事。
PTSDの症状が深刻化し、回復も遅れることが危惧。

http://wol.nikkeibp.co.jp/article/trend/20110614/111203/

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